夜もカエサナイ
12.
「こ…これ、なんですかぁ?」
次は何処だと、マップを広げていると、千尋が興奮したようにそこを指した。
”闇温泉。真っ裸で各種の温泉を歩けます。恋人といろいろなこと、やり放題”
「うっ……」
やべ…これはスゴイ。
でも、さっきのこともあるので、入り口で一応聞いてみた。
「ご安心ください。貸し切り状態になります」
ってわけで、早速脱衣所で服を脱ぐことに…。
「やっと、お前の裸…見れた」
恥ずかしそうに前を隠す手を、掴んで引き寄せた。
「はいぃ~……でも、こんなトコじゃ…」
「そうだな…フェラも出来ない」
キスだけして、闇風呂へ入っていった。
「え…露天!?」
闇と言っても、空が明るい。囲いの外からクリスマスのネオンが零れていた。
夜の闇を映して、湯は真っ黒い。
そこから立ちのぼる白い湯気が、ネオンの空に消えていくのは、幻想的だった。
「通りで、マップの端っこな訳だ」
観覧車から、一番遠い場所なんじゃないか。
「真っ暗闇よか、顔が見えていいな…」
入り口横にある洗い場で、簡単に身体を流した。
「うわ…熱ち……」
一つ目の温泉は、熱い分浅い…長湯できないような変な風呂だった。
太股の上くらいまでしか、水位がない。
バシャバシャとお湯を掻き分けて歩く千尋の股間が……
「……丸見えだな」
「徹平さんも…ですう」
微妙にヤラシイ構図で…俺たちのそれは、上を向いていった。
細長く伸びた温泉を横断すると、次の風呂に向かった。
「お湯の中を歩くだけで、のぼせそうでしたぁ…」
次はぬるくて、もっと浅い。
「寝湯?」
立て札の説明通り、お湯の中で寝そべってみると…
「丸見えだな」
「徹平さんっ…スゴイですぅ」
丸見えって言うより、丸出し…。
胸や腹ギリギリまでの水位しかない、超浅風呂だった。
そんなんで、勃起してる俺たちのそれが、お湯に沈むはずもなく……。
「俺、もう限界」
千尋の可愛い潜望鏡にしゃぶり付いた。
「あぁっ……」
さっきフェラしたときより、ずっと熱い…。
「やぁ…ダメです……こんなトコで……」
お湯を掻いて暴れる千尋を押さえ付けて、全部口に含んだ。
「ひゃ…ぁん」
先端のカリ首の裏をつつき出せば、気持ちよくて抵抗出来なくなる。
千尋の弱いところを知り尽くした俺は、そんなトコばっか責めてやった。
「あっ……んぁああ!」
さっきは触れなかった胸の桜色も、摘んだ。
「はぁ! ……ぁあっ……徹平さん…だめ…ぅん……」
声が色っぽくなる。
「千尋……すまん」
湯から腰を抱え上げると、蕾に舌を這わせた。
「んっ…」
あまり解すこともしてやれず、俺は自分の滾りを押し付けた。
「あっ……お湯が……」
起きあがろうとする身体を押さえ付けて、中に入っていく。
「んぁ……あぁっ…!」
打ち寄せては退く温泉の湯が、千尋の白い胸を撫でていく。
胸の花弁も濃い桜色に染まり、唇も頬も目のフチも……何もかも紅い。
湯の中でなびく髪の毛が、細く金色に煌めいて、千尋の顔を妖しく彩る。
「……綺麗だ」
片足を俺の肩に抱え上げて、深く挿入した。
「ああっ…」
そのまま身体を倒して、千尋に覆い被さった。
「メリークリスマス……千尋…」
半分湯に浸かっている顔を、首の後ろから腕を回して掬い上げた。
「徹平さ……だいすき…」
喘ぎながら、顎を反らせる。
「俺も…」
言いながら唇を塞いで、腰を動かし始めた。
「ん…んぁあ……なんか、すごい……」
浮力が手伝うのか、抜いて入れるときの衝撃がいつもと違った。
「あっ……あぁ…! お湯…お湯が……」
不安そうに眉を寄せつつも、腕は俺の首にしっかりと巻き付いてきた。
「徹平さん…」
上気させた頬で、俺を視界に捕らえる。
「ボク…今日、ボクだけがあんな風にイって、それで終わりなんて……」
「…………」
「観覧車の中で、それがすごく悲しかったです」
「千尋……」
「だから、今……すっごい、嬉しい……」
きゅっと、中と入り口を搾られた。
「クッ……」
「ボク、徹平さんと……繋がってる…」
湯じゃない輝きを目尻に光らせて、微笑んだ。
「ああ…繋がってる…一つにな。……めちゃくちゃ…気持ちいい。お前ん中…」
愛しいとか、愛してるとか…何回も言ってきたけど。
そんなのお互い判ってるけど。
どう言っても、伝わらない気もした。
───言葉なんかじゃ……
「千尋……」
抱くたびに、愛しくなる。
呼ぶたびに、苦しくなる。
抱え上げた足を更に開かせて、俺は腰の動きを速くした。
熱い千尋の中…俺も、熱い。
コイツの弱いトコ、俺だけが知ってるコイツのイイとこ。
そこを突いて責める。いっぱい泣かす。
「あぁっ…すご……いいよぉ……」
「千尋……イクッ…!」
「ボクも…イク……イきますっ!」
千尋の中に俺の全てを注ぎ込んで、腰を止めた。
「……はぁ……」
「……はぁッ……はぁッ」
二人の荒い呼吸が、白い湯気を立てて、闇に溶ける。
「あは……しちゃいましたね~………」
「……ああ」
眉を寄せて笑うから…俺も笑ってキスをした。
「こんなとこで、ごめんな」
その後は、温泉周りどころではなく……。
そこを出て、”仮眠室”に向かった。
「……そんなトコも、用意してあるんですねぇ」
「確かに夜通し遊ぶには、必要な場所だよな!」
「ひゃあ……、コレもアトラクションですかぁ」
「さっすが! 大人の遊園地は、抜け目がないな」
ココも来てみて、驚いた。
一見平屋の、プレハブのような建物。
中に入ると一直線に廊下が続き、左右の個室にいろいろな”仮眠室”が取りそろえてあった。
簡易的なビジネスホテル風の部屋から、事務所、保健室……果ては病院のナースセンターみたいな部屋まで。
「病院は……間に合ってるよなぁ」
「はいぃ…もう、見飽きました」
笑いながら、各部屋を覗いて、一番シンプルなビジホに戻った。
「俺たちの原点って、ここじゃね?」
「……そうですかぁ?」
「おっ!」
中から、若いにーちゃんが出てきたところだった。
清掃員の格好をしている。
「あれ……ここ、清掃中?」
俺が聞くと、ソイツは首を横に振った。
「いんや。これはコスプレ!」
「は?」
驚いてる俺たちを気にもせず、廊下の先を指さして、
「あっち、ロッカールーム。色々あるから遊べば?」
「……いや…」
「それとココ、使ってたわけじゃないんで、どうぞ」
そう言って笑うと、するりと間を抜けて、余所へ消えていった。
「……あの人、大人にはみえなかったです~」
目線で後ろ姿を追っている千尋。
確かに高校生のような顔してたし、何か変な奴だったな……でも、
「お前も、見えないよ」
「え~っ」
眉を寄せるその身体を掬い上げて、部屋の奥に入った。
簡易ベッドに放り投げて、上から覆い被さる。
「何処が大人か、見せてみろ」
「えっ! 仮眠するんじゃないんですかぁ?」
「何言ってやがる! こんなとこで仮眠だけのつもりか?」
「え…だってここ、ラボホテルって訳では……」
「だからいいんじゃんか。声出すなよ」
「えぇ~!」
「脱がしてやる…大人しくしろ」
「徹平さん…おじさんくさいですぅ」
上から跨って、コートを剥ぎ取った俺に、そんなことを言う。
「……」
ちょっと傷ついた。
「このやろ! ……お前だってなあッ……大人の証明、見せてみろ!」
「ひゃあ~!」
夜がやっと更けていく。
クリスマスソングは一晩中鳴り響き、俺たちは寝たりヤったり、遊んだり……
素敵なプレゼントを、25日の夕方、帰るギリギリまで、遊び倒していた。
「じゃな、待ってるから。早く帰ってこい!」
「てっぺーさん……帰っちゃだめですぅ」
別れを言って、車から降ろそうとしたら、千尋が抱きついてきた。
「────!!」
こんな我が儘なんて、言ったことがなかたから、驚いた。
「里心ついたか?」
顔を覗き込んで笑うと、べそっかきの顔で俺を見返す。
「うう……」
「帰ってきたら、お前のベッドに行ってやる。そん時は、俺を帰すなよ!」
「……はいぃ」
「いっぱい、いろんなことしてくれ! 朝まで一緒に寝てやるから。だから、今は頑張れ!!」
「はい~! 判りましたぁ!!」
正月が開けて、俺の会社の新年会が終わる頃、千尋が帰ってきた。
「徹平さん、ただいまですぅ~!」
その喋りは変わらなかったけれど、自信がついたような張りのある空気を纏ったような気がする。
「無事採用って事で、昼の部と夜に向けての仕込みを、させて貰えることになりました!」
「おお、すげぇな!」
さっそく写真に報告した。
「あんたの息子、こんなにリッパになったぜ!」
「……お父さん。ボク、もう大丈夫です」
俺たちは、写真に見せ付けるようにディープキスをした。
「そういえば、あのクリスマスチケットですけど…」
「ん?」
「親方に後で訊いたんですけど、俺は知らないって……」
「は!?」
「女将さんも知らないって……」
「……じゃあ、誰が?」
写真の顔が、意味深に笑った気がした。
「徹平さん…たまにはあっちに来てください~」
俺のベッドの中で、千尋が自分のベッドを指さした。
俺は毎晩千尋を、自分の布団に引きずり込んで、抱き締めて眠っていた。
「ボクも、徹平さんにイロイロしたいです~!」
俺はじっと千尋を見つめて、無碍に一言。
「行かねー! 俺はやっぱ一方的にする方が好きだ! されるのは性に合わない!」
「え~っズルイです! 約束が違います~!!」
ふくれっ面で、文句も言うようになった。
「ははっ、気にすんな!」
「ひゃあ~っ」
パジャマを捲り上げて、乳首を舐めてやる。
鎖骨、胸、脇……ヘソ、腰骨、その下も……みんな俺のもんだ。
「あっ……ぁあ…」
抗いながらも、熱くなっていく身体……
ダブルベッドが買えるまで、もうあっちにはカエサナイ。
「千尋、今度は、母さんだ……覚悟、決めてくぜ」
「……徹平さん……」
「何があっても、一緒だからな」
「はい…っ!」
後日、ひっくり返ってしまった母さんから出た言葉は……
「千尋を、息子じゃなくて孫にしときゃよかった!」
泣き笑いをしながら、その手があったかと唸る俺を、呆れた目で見て……。
結局その後も、俺達はシングルベッドのままだった。
あの時のことを思い出して、布団の中で溜息を吐いた。
「お母さん、泣いちゃいましたね……」
「ああ、……でも、笑ってくれた」
「……はい」
腕の中から、千尋が俺を見上げる
「……もう、公認だなんて……まだ…信じられないです」
潤んだ目が、じっと俺を見つめる。
「……俺も」
カバン返してと、言い掛かりを付けてきて、荷物ぶちまけたり、自分を拾ってくれと言い出したり……そのくせ、肝心なことは、一言も言わない。
出会いはマジで、厄介で変なヤツだと思った。
そして……優しく微笑むこの目は、何も期待しなかった。
要求も押し付けも、何もかも一切しない。
だって…と言っては口を噤んで……
自分が生きているのが罪なことのように、全てを諦めて、あの写真だけに執着していた。
その目が、今は自分のために輝いている。
俺と居ることを、喜んでいる。
(よかったな…)
心からそう思う。
俺も千尋のおかげで、変わることができた。
……母さんと、ちゃんと話せるようになったのも、コイツのおかげなんだ。
(さんきゅーな……)
愛しい気持ちが、止めどなく湧き上がる。
「お前のやりたいこと、いっぱい聞きたい。全部、叶えていくぞ」
「はい~!」
「手始めに、ダブルベッドにできる。……買うか?」
判りきったことを、頬にキスをしながら囁く。
クスクスと笑いながら、首を横に振る千尋。
「狭いのが、いいんですよねぇ」
「ああ、この密着度……最高だな!」
明日も明後日も…千尋は毎朝、寝坊をするだろう。
そしていつも、眼鏡を探し回って……
俺の背中の下に手を突っ込むのを、繰り返すこととなる。
END