chapter11. keep a secret -絶対命令-
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「──────」
天野君は、驚愕の瞳で、ぼくを見つめた。
その目は、何故? と問い質している。
「……誰から聞いたわけでも、見たわけでもないけどね」
「……………」
「辛かったね」
「……………っ」
今度は、泣きそうな顔になった。
「天野君が、ほんとはこの行為を好きなことも、知ってる」
「……………」
「……だから、思い出してほしいんだ」
指先で、小さく尖った花弁を弄った。
「ぁ……やだ! 先生、……やめて!」
腰を捩らせながら、必死にそう言ってくる。縛り上げた腕に力を込めて、身体を起こそうとする。
このままじゃ、大声になりそうだった。
「天野君……あんまりうるさいと、もう一回、タオル噛ませるよ」
「!!」
目を見開いて、天野君は黙った。下唇を、きゅっと噛む。
「……そう。いい子だね」
再度、天野君の胸に舌を這わせた。反対側も、指でいたぶる。
「ぁあッ……、んッ……」
身体を小刻みに震わせながら、短く喘ぐ。
ちらりと仰ぎ見たその顔は、声を出さないように、唇を引き締めていた。辛そうに、眉を寄せながら。
………本当に、いい子……
唇をそっと下に降ろしていった。萎えているモノを、口に含む。
「あっ……」
また、身体が揺れる。
太腿の内側を、膝から脚の付け根へ、さするように撫で上げた。
焦らして、少しずつ上に手のひらを移動させる。
脚の付け根に辿り着いたら、指を悪戯に蕾を掠めたり、小さな二つの膨らみを揉んだりした。そしてまた、膝に戻っては上に行く。
その度に、その身体は揺れた。
前のモノも、口内で優しくなぶった。
上あごと舌面で、亀頭を少し押して挟む。舌面の圧力で左右に転がしたり、奧に吸ってみたりする。
「ぁぁ……はぁ……」
また、根本から唇で包囲して、口内で舌先を巻き付けて360度舐め回す。
「ふ……ぅ……」
少しずつ、その柔らかいモノは、芯を持ち始めた。立てている膝も震え出す。
「天野君……」
小さな双丘の奧に隠れる、ピンクの蕾。そこに舌を移動させた。
「あっ」
ぴくんと、身体が跳ねた。
「せんせい……お願い」
か細い、怯えた声が頭上から聞こえた。
「先生、……いや……やめて…………」
ぼくの背中を、快感が這い上がる。
ぞくぞくと這い上がるそれは、思わずぼくを呻かせた。
「………天野君」
“先生”と呼ぶ。
その唇が。……その声が。
ぼくはもう、他は聴こえなかった。
もっと、呼んで欲しい。呼び続けて……ぼくを……
蕾の中に、舌先を押し込み始める。今までにない、硬い締め付け。
──完全な拒絶反応だった。
無意識に強張っている身体が、異物を受け入れまいと、頑なにそこを閉ざす。
ぼくは焦らず、そこに舌先を当てたまま、いつまでも舐め続けた。
時々上に這い上がって、小さな袋や裏筋も舐め上げる。また戻って、舌面で蕾全体をあじわう。
「やだぁ……せんせい……」
非難と恐怖が入り交じった声。でも、さっきより力が無い気がする。
「天野君……後ろ……しぼって」
ぼくの言葉に、びくんと身体が反応した。
ごくんと飲み込むように、蕾が動いた。突き当てていた舌先が、きゅっと搾られる。
「あっ! やぁ……」
自分でその感覚に驚いて、声をあげている。
一度ゆるんだそこは、あとは容易かった。どんどん奧まで舌を受け入れる。
ぼくは丁寧に丁寧に、蕾のふくらみや際を刺激するように舐めながら、舌を出し入れした。
「先生……先生っ……おねがい! …やめて!」
身もだえて、腰を揺らす。舌を抜くと、左手の中指を添えた。
その指は、すでに天野君の愛液で濡れていた。
ぬぷり。
第一関節まで入れてみる。
「アッ! やっ……嫌ぁ……先生、やだ!」
また、声が大きくなってきた。ぼくは身体を擦り上げて、天野君と並んだ。
「なんで、嫌?」
もう一度、聞いてみる。
「…………!」
涙に濡れた目を、ぼくに向けた。
「……怖いよね」
耳元で囁く。
「痛かったこと、思い出しちゃうもんね」
「!!」
驚愕の色に変わった瞳を覗き込む。
指を更に押し込んだ。苦しそうに、その目が細められた。
「……でも、それだけ?」
「………………」
「ずっとずっと、気持ちいいことしてきてて」
指を抜き差しし始めた。
「ん、あぁっ」
「この身体は、それを覚えてるよね」
「………」
「イヤ、だけじゃないよね」
中指の抽挿を早めながら、唇を塞いだ。
「んんっ───」
腰が跳ね上がる。条件反射のように、天野君の舌がぼくの舌に絡んでくる。
「…………ふぅっ」
ぼくの腰も疼く。
「天野君………好き」
唇を離すと、瞳を覗き込んで、そう伝えた。
複雑な瞳の色。
眉を寄せて、困ったような、泣きだしそうな……快感に翻弄されて、心が纏まらないでいる。
「天野君……大好きだよ」
もう一度言った。
「ぼくは、天野君を傷つけたいわけじゃない。……君とこうしていたいだけなんだ」
じゅぷじゅぷと、指が動くたび音が聴こえて、ぼくの興奮も高まっていく。
「痛くなんか、しないから……怖くない……よ」
耳に舌を入れながら、時々耳たぶを噛んだ。
「あッ」
首をすくめる。顔を振って、ぼくの舌から逃げた。
指に肉壁が纏い付く。搾られては、吐き出されそうになるのを、逆らって押し込んだ。
「ああっ! せ……先生……」
腰を捩って、さらに逃げる。でも、喘ぎながら見つめてきたその目は……
細められた双眸から放たれる光は、妖しく光っていた。
───取り戻した。
天野君のオーラ……
ぼくはそっと、自分の大きくなってしまっているモノを、天野君のそこにあてがった。
了解は敢えて取らなかった。言葉にすると、今は恐がってしまうだろう。
「……ん……」
自分の先走りも手伝って、潤っている蕾はぼくの先端を容易く受け入れた。
「っ、ぁあ……」
天野君が仰け反る。
………気持ちいい。───天野君、最高。
ゆっくり律動を始めた。
「ぅあ、……先生っ……先生…!」
喉を反らせて、譫言のようにぼくを呼んだ。
前の屹立にも手のひらを這わせて、扱いた。
「ああっ…嫌ぁ………!」
一瞬、小さく抵抗したけれど、それ以上の快楽に、言葉を失くしていった。
「あっ……あぁ………」
揺さぶられながら、嬌声を上げる。
想像以上に、高い声だった。語尾を掠れさせて、余韻をつくる。その響きにまた、煽られた。
「くッ………あまのくん」
はぁ、はぁ、と二人の吐息が絡む。
「………最高……いくよ……一緒にいこうね」
耳に囁いて、一際、激しく腰を動かした。
「───んあぁ!」
前も大きく扱いて、高みに導いた。
「────っ!!」
小さな身体の中に、熱い液体を注ぎ込んだ。
ぼくの手にも、天野君の体温が飛び散った。
「───はぁっ!」
その身体の横に、倒れ込んでしまった。
呼吸が間に合わない。
高鳴る心臓が、快感と脱力感を入れ替えていった。
横に目線を動かすと、縛られたままの天野君が、静かに泣いていた。
目を瞑って、唇を噛み締めて。
「……………」
その唇と頬は、真っ赤に染まっている。
ぼくは手首の戒めを解いてあげると、泣いている小さな身体を抱きしめた。
「……痛くなかったよね?」
「…………」
なんの返事もない。
「もう、大丈夫だよ。怖くない……よね?」
でも。
天野君は、静かに首を横に振った。
ぼくは、心がズキンと痛かった。
──それでも
ぼくは、言ってしまうんだ。
やめられない麻薬のように、天野君はぼくを虜にさせる……。
「君の健康管理は、ぼくがする。身体の全てを。…克にいの変わりにね」
はっと、顔を上げる天野君。
「だから、これは二人だけの秘密。毎日おいで」
耳元で囁き続けた。
「………………」
「丈太郎にも、内緒だよ。……二人も看られない。もう……写真もいらないし」
暗に、秘密をばらしたら丈太郎にも同じ事をするよ、と脅す。
そうやって、首に嵌めた見えない鎖を、ぼくは引っ張った。
そして、天野君も分かっていた。
“写真”というキーワードに、身体を震わせて。横たわったままぼくを見つめ、唇を一層噛み締めていた。
新しい涙が、次々と頬を伝い落ちる。
「……ごめんね。……これは痛かったね」
赤黒い痕が付いてしまった手首に、目を留めた。その傷に手を這わせる。
「………」
「君がいい子にしていたら、もうこんな事しないから」
天野君は、いつまでも声を出さずにただ泣き続けた。
その身体をずっと、抱きしめていた。愛おしくて。
心を傷つけつつも、手に入れた天使を、手放したくなくて───
………ぼくはどこまでも、残酷になる。