chapter9. strange world -異世界-
1. 2. 3. 4.
1
…………………
なんだか、騒がしい……
うるさいな……
近くで、殴打するような不快音と………叫び声……?
「───────」
視界が霞んで、よく見えない。
目眩なのか、上下のない感覚。
痛い……体が…動かない……
────俺は……
「…ガッ……ウアッ!」
「ハハハッ、もっと苦しめッ!!」
────────!
視界より、意識が先にはっきりした。
罵声と笑い。
オッサンの呻き声。
そして、激しい打撃音。
リンチの首謀者……その声は……
──── チェイス……!
「ッ……!」
顔を起こそうとして、後頭部に激痛が走った。
さらに腹痛と嘔吐感で、体がくの字に曲がる。
………あっ…
それで判った。俺は後ろ手に縛られて、床に転がされていた。
───ここは……この騒ぎは……
状況を捉えようと、必死に音の方へ目を凝らした。
ガランとした、小さな空間。
妙に生臭い……どこかの…倉庫?
冷たい鉄板のような床。……その先に、金髪の男達。
4.5人いるそいつらの足元には、ボロ雑巾のような塊………
────オッサン……!
「や……止めろ!」
俺は思わず、叫んでいた。
壮絶な暴行に、全身の肌が粟立つ。寄って集って靴底で踏み潰して、蹴り上げて。
手足を縛られたオッサンは、全身血まみれで、されるがままだった。
「ハッ……ドールが、お目覚めだ!」
その声で、男達の動きが止まった。
一際体格のいい背中が、ゆっくりとこっちを向いた。
──── チェイス……
忘れもしない……この顔。
ひとり見事なプラチナブロンドで、精悍な目鼻立ち。
入れ墨を刺した二の腕を見せつけるように、シャツを肩まで捲り上げて。鍛え上げた厳つい筋肉を、晒している。
あんなに逃げまわったのに……
あと一歩って所で───
オッサンに捕まった時も、ショックを受けた。
……でも、そんなんじゃない……現状を受け入れられなくて……真っ白だ。
コイツの容赦のない腕を、身体が覚えている。視線を合わせただけで、声が出なくなった。
「───────」
それでもそのまま、チェイスを睨み上げた。
「……ハハッ、……止めろって?」
巻き毛を掻き上げて、面白そうに、俺を見下ろす碧眼が笑う。
「こんなヤツを、庇うのか?」
「─────!」
俺は思わず、オッサンを見た。
すべての元凶。こんな事になったのは、全部この悪魔のせいで……
───でも……体中、擦り傷と打撲。
血だらけの顔は腫れ上がって、見る影もない……
苦しそうに呻きながら、グッタリと横たわっている。
その顔はこっちを向いているけれど……俺が、見えているのか?
死んでしまう。
そう思わせるほど、痛めつけられている。
「…………………」
答えられないでいると、チェイスもオッサンに視線を投げた。
「そうだな……殺すのは、いつでもできる」
何かを思いついたように呟いて、凶悪な笑みを片頬に浮かべた。
「もっと、どん底に落としてやる……マサヨシの大切なドールを…目の前で辱めて」
───────!!
言うが早いか俺の前髪を掴んで、無理矢理引っぱり上げた。
「………ッ」
後ろ手に縛られて、腹這いだ。強引なポーズは、かなり苦しい。
でも、それっぽっちの苦痛なんて……消し飛んでしまう現実が、目の前にあった。
ライトブルーの双眸が、射抜くような殺気を漲らせる。
「オマエも憎い……グラディスは“Wonderful doll”を気に入りすぎた……」
噛み殺されるかと思うほど、近い。
「……………」
俺は視線を外せないまま、首を横に振った。
圧力と恐怖で…………全身から、血の気が引いていく。
「確かに綺麗なカオ、しているな」
ニヤリと嗤ったのか……。唇を捲り上げて歯茎まで見せたその顔は、牙を剥いた銀色の猛獣だった。
ヒュッと口笛を吹いたかと思うと、チェイスは周りの男達に何かを叫んだ。その途端、縄を解かれて、手足をそれぞれの男に押さえられた。
「………ッ!」
オッサンに向けて足を開き、背後から羽交い締めにして座らされた。
「…や……離せッ!」
抱きかかえるようにガッチリと肩を押さえ込まれて、身体を揺すっても、びくともしない。
「前回は、お気に入りのドールを、ぶっ壊してやるつもりだった」
チェイスが不適な笑みで、俺の前にまた屈み込む。
「今は、マサヨシが苦しむように……オマエをじっくりヨガらせてせてやる」
ジーンズに手を伸ばしてきて、ボタンを外された。
シッパーをゆっくりと下ろしていく。
「─────」
オッサンの顔の前に、大股開きで………
散々脱がされて、見られてきたけど。
こんな風に男達に押さえつけられて、晒されるなんて……羞恥の度合いが違う。
しかも、こんな何人もいる前で……犯るって?
「や……」
回らない頭が、ワンテンポ遅れて感情を連れてくる。
抵抗しようとした時、チェイスの背後で何かが聞こえた。
「……だめ……かつ……」
気絶しているように見えたオッサンが、声を漏らしていた。
「………………」
唇を震わせて、首を微かに振る。
「ウルセエよ……おとなしく見ていなッ!」
楽しそうに叫ぶと、チェイスは俺のシャツの合わせを、力任せに開いた。ボタンが引きちぎれて、飛んでいく。
「……ッ」
下のTシャツも、鎖骨まで捲り上げて。オッサンに見せつけるように、胸がはだけられた。
「……………」
冷えた空気が、胸と腹を撫でた。
真っ青になっているのが、自分でもわかる。
「………いい格好だな」
チェイスがまた嗤う。
手下に指示して何かを受け取ると、それを指先に絞り出して、俺の両胸に塗ってきた。
「……アッ」
ビクンと身体が跳ねてしまい、唇を噛んだ。
────この感覚は……!
そこが熱を持ったみたいに、ジンジンと痺れ出した。この薬を胸に塗られたのは、初めてだった。
「……はぁッ……」
それ以上は触ってもいないのに、尖りが目に見えて立ってくる。
「エロイな…この身体……」
チェイスの親指の腹が、敏感になったそこを擦った。
「あッ…ぁ…!」
ピリッと鋭い痺れが、脇や腰に走った。
「くッ……アアァッ」
痛いほど摘んで、押して、そこだけ責めてくる。
俺は、後ろの男に身体を預けるように仰け反って、身悶えた。
「ドール……反応が早いな」
チェイスが下を見て、熱い息を吐いた。
さっきジッパーだけ下ろされていて、ジーンズの前がV字に開放されている。反応してしまった俺のモノが、そこからグレーのボクサーを押し上げていた。
「マサヨシに見せてやる」
「……嫌だ……止めろ!」
両肩を抜こうと左右に揺さぶろうとしても、まったく拘束は緩まない。
足首もプレートごと凄い力で押さえ込まれ、ジーンズとボクサーが剥ぎ取られた。
上は長袖カジュアルシャツと捲りあげたTシャツ、下は靴下だけ……全裸よりも恥ずかしいような格好で、オッサンの目の前に、屹立した大股を開かされた。
「………かつ…」
息も絶え絶えに、オッサンが目を見張る。
「……見るな!」
薬のせいで、俺も息が上がる。顔が熱くなっていく。
チェイスの手が伸びて、丸見えになっている後ろに薬を塗り込んだ。
「…アッ!」
そのまま指が入ってくる。
「んぁああッ…!」
太いごつごつとした指が、入っては中を掻き回し、出ては表面を擦る。
腰しか動かせない俺は、みっともなく振っては逃げて、かえってねだっている格好になった。
「ん……はぁ…」
薄く塗られた薬の量は絶妙で、前回みたいにショックを起こしたりはしない。じわじわと熱を発して浸透し、内側から妖しげな疼きを引き出そうとする。
「んんッ」
面白そうにじっと俺を見下ろしていたチェイスが、いきなり覆い被さってきた。
濃厚なキス。強引に舌が入ってきて、咥内を蹂躙する。
「ふ……んっ……」
胸を弄られながら、目の回るような強引なディープキスが続いた。
苦しい……限界を感じたとき、後ろに何かをあてがわれる気配があった。
「ンッ……んぁ…ぁああ!」
太さもあるけど、長さが……異常なほどだ。
「…あ、………あっ……あ…」
ずるずると入ってくる挿入感が、いつまでも続く。
最奥だと思っていた体内の、更に奥を突いてくる。
「やめ……うあぁ…! …やめろ、…やめろッ!!」
貫かれる恐怖に、無意識に叫んでいた。
腹が突き破られるんじゃないかとさえ、思う。
「oh……great……」
全部を押し込んで、チェイスが呻いた。
「nice cunt……よく締まる………」
ニヤリと笑う。
下品な隠語だったのか、周りの手下達が笑い声を上げた。
「……はぁ……はぁ……」
薬が体内に浸透していくのがわかる。
入ってきた怒張を数倍にも、大きく感じさせる。
そして肉壁に熱を、萎えてる前のモノにも刺激を、送り始める。
「……う…ぁあ…」
動き出したチェイスの身体越しに、一瞬オッサンの顔が見えた。
涙の筋が、血の跡を消している。
─────!!
膝を抱え上げられて、足首すら空中で固定されて。
その目に何が映っているのかなんて………そのカオに、教えられたくなかった。
「………んッ……あッ…ぁあッ!」
でも俺は……
見られてるとか陵辱とか…もう、そんなもの……
圧迫感と異物感に耐えて、薬の快楽に流されないように必死だった。
やっぱり自分との、闘いなんだ。
「ドール、もっと声を出せ…」
「…んっ……はッ……」
「マサヨシに、もっと……ヨガリ声を、聞かせてやれ」
「……んんッ……ぁあ…ああぁ……!」
激しく腰を振る。腸壁の敏感な場所を、突いては擦る。
打ち付けると腹全体が疼いて、異常な射精欲求に襲われた。
────こんなの!
オッサンより酷い…こんなことされて、よがり声なんて……!
「クッ……」
何を口走るか判らなくて、それが怖くて。俺は血が滲むほど、唇を噛みしめた。
……薬にだって、負けない……こんな感覚、俺の意志じゃない……
───本当は、嘘なんだ!
「……カツハル」
目を瞑って、早く終わることだけを祈っていた。
ドール、ドールと繰り返していたチェイスが、荒い息の中でまたキスをしてきた。
「……んんっ!」
更に激しいピストン。本当に壊れるかと思う程、突き上げられた。
開けさせられた口からは、息継ぎが喘ぎ声のように漏れた。
「ぁあッ……んあぁ……!」
チェイスの大きな掌が、すっかり反り上がっている俺のを握り込んだ。
「……ぅぁああっ…!」
野獣の唸り声に、俺の悲鳴は掻き消されて。
熱い欲望が、腹の中に溢れた。胸には、自分の白濁が飛び散って……
「………ハァ……ハァ……」
二人の荒い呼吸だけが、倉庫のような部屋に響く。
「great doll……オマエ……いいな…」
「─────」
繋がったまま、抱き締めてくる。
下卑た笑いに、背けた顔はそのまま……言い返す気力も、残っていない──
目覚めた途端に始まった悪夢は、終了した。
「……ん…ぁう…」
ズルッと引き抜く感触も、嫌だ。
内臓に空間が空いたかと思うくらい、急に消えた圧迫感と異物感。
震えと目眩が…止まらない。
開放された俺は動けないまま、あられのない格好で横たわっていた。
チェイスは俺とオッサンの間で仁王立ちになり、大声で笑い出した。
「ハハハッ! マサヨシ…ドールを穢された気分はどうだ!?」
「……………」
霞む視界に映るのは、肩を振るわせている、血だらけのスーツ。
噛みしめる歯列。
「消えたと思ったら、また現れて……目障りなヤツめッ!」
憎しみをぶつけるように、オッサンに鋭い蹴りが入った。
「オマエなんか、グラディスには似合わない!」
「グァアッ!」
痛そうな呻き声が上がる。
「……まあいい……もう会わせはしない……」
「………う…」
「オマエを、いつでも殺せる。……それまで、たっぷりいたぶってやる!」
気が済んだように言い捨てて、手下に何かを指示した。
「………………」
縄を解いているようだ。
ぼんやりと眺めながら、オッサンの命が延びたことを実感していた。
このまま撲殺……それはやめたんだ……
───よかった……
そんなの見せられるなんて、冗談じゃない────
冷たい鉄板が、熱い身体を冷やしていく。
薬の余韻が、抜けていく。
「──────」
グッタリと動かない俺を、チェイスが上から見下ろしている。
…………穢された…? ……そんなのは、今更だ……
悔しくて……
意識が墜ちないように、精一杯その足先を睨み付けていた。
「何を、しているんですか……野蛮ですね」
凛と響く、鋭い声。
女性かと思うほど、高くて綺麗なソプラノ。
分厚い鉄板の扉が開いて、その人は入ってきた。
「…… シレン」
チッと舌打ちをして、チェイスが迎え撃つような声を出した。