chapter8. awakening... oblivion time 忘却の扉
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「……………」
 
 俺には、これから何が起こるのか、まったく判らなかった。
 強がって罵ることも、今はできない。ただ、目の前で動く悪魔の行動を見ているしかなかった。
 
 ガラスのテーブルにもう1セットあったモノ。それを掴むと、オッサンは俺の足元に座り直した。
 
「……!?」
 そのトレーの中身を見て、新たな不安を覚えた。
 ……なに……なにすんだ?
 
 小さなガラスの容器と、注射針の付いてないシリンジ。
 
 オッサンは薄いぴったりとしたゴム手袋を両手に嵌めると、シリンジの先をにガラス瓶に差し込んだ。
 小さなジャムの瓶ようなガラス容器。その中身……透明なゼリーが吸い上げられていく。
 
 そして、自分の両脚で俺の足を押さえ込むと、膝を少し立たせて外側に広げさせた。 
 
 
「────!!」
 恐怖で、視線がそれに釘付けになった。オッサンの手が、俺の蕾をまさぐる。
 
「んん───っ!!」
 腰を捩って、抵抗した。やめろと、目線で威嚇して。
 
 ヤツは、それを捉えると、にっこり微笑んで返してきた。
「これね、皮膚浸透する薬。今は僕に効いちゃうと困るからね」
 手袋をした手をひらひらと振った。
 そして、ガラスビンの中にその指を突っ込んで、残っている透明なゼリーをたっぷりと、取りだした。
 
「んんッ!」
 ヒヤリとした感触のあと、後ろの中心に圧力が掛かった。グイグイと強引に指が入ってくる。 
 ───嫌だ! ……やめろっ……
 心で叫びながら、身体を震わせた。
 ……薬って、今度は何だよ!?
 拘束された手首の鎖が、頭の上でうるさく金属音を立てる。
 ゼリーを蕾に擦りつけ、中の内壁にも塗り込まれた。その指の動きだけでも、息が上がる。
「……んっ」
 指が外れたとき、思わず声が出た。
「……いい声。そんな声は、ずっと聞かせてね」
 足元で嗤いながら言う。そしてオッサンは、シリンジを手にして、その先端を俺の蕾にあてがった。
 
 ───や……っ
 
 恐怖が頂点に達した。得体の知れない“薬”。そんなもの、大量に体内に入れるなんて。
 …………!!
 硬い異物が、後ろに差し込まれた。
「んん───ッ!」
 容赦なくピストンが押される。冷たい何かが入ってきた。
  
「……ふ………」
 下っ腹が、違和感で膨れた。かなり気持ち悪い。
「……そんな、恨みがましく見ないでよ。そんなに悪いモンじゃないから、これ」
 自分の方が被害者と、言わんばかりの顔で言う。
「たいした量じゃないだろ? 吸収いいしネ」
 シリンジの先を抜くと、入れ替わりに親指で押さえた。回し揉みするように、動かしてくる。
「んっ、んっ……」
 そんな動きさえ、声が漏れる。オッサンはそれを楽しむように、時々指を動かしては嗤った。
 
 だいぶそうやって、フタをされていた。
「もう、出てこないね」
 暫くして手袋を外すと、俺に添い寝をするように、横に並んだ。スーツからは、煙草の匂いが漂った。
 顔を同じ高さに揃えて、覗き込んでくる。俺は首だけでも反対側に向けて、悪魔を視界から消した。
 
 手が伸びてきて、顔に触れた。
 頬、鼻、唇、顎……形を確かめるように、触っていく。背筋に悪寒が走った。
 更に、顔を背ける。
「……克晴。死んじゃうかと思った」
 後ろで小さな声がした。
「……ホントは、死んじゃったかと思ってた。姿を見るまでは」
「…………」
「君が居ないことに気付いて、僕、どれくらい探したかわからないよ……」
 噛まされてるギャグの、革ベルトを弄ぶ。
「階段で、大量の血痕を見付けた時は、心臓が止まるかと思った」
「…………」
「また……。克晴は、また、僕から逃げようとして、そんな愚かな事をしたのかと思ったんだ。あの、河に落ちたときみたいに……」
 
 ───河?
 ……あの時か。 
 俺が恵のお土産にと葉っぱを取ろうとして、橋から河に落ちたんだ。
 ……オッサンは、俺が自分で飛び込んだと思ったのか……。
 
「今回こそ、そうだと思った。あの血の量は尋常じゃなかったし、ナイフが落ちてたから」
「…………」
「でも、克晴いないし……。病院に運ばれたのかとか、色々考えたよ」
 耳を触ってきたから、首を振って追い払った。
「でも、でもきっと……そうじゃないならきっと、恵君の所に来る。そう思ってあそこにいたんだ、僕」
「…………」
 ───そして、俺はまんまと捕まったわけだ……
 分かり切っていることが、その通り起こっていたんだ。自嘲う気にもなれない。
「克晴……生きてたし、手首の傷は手当てがしてあったから、僕……安心した。………それだけは、嫌だったから」
 
 ────?
 言ってる意味が、よくわからない。なんの話しをしている?
 
 また耳を触ってきた。指が妙に熱くて、鬱陶しい。顔を振って、手を外した。
 
「…………」
 さっきから、なんか、おかしい。自分の呼吸が耳に付く。
 噛ませられたギャグの中で、熱い吐息がねっとりと絡む。
 ……熱いのは、オッサンの指じゃなくて、俺の身体……?
 
「なんか、変化が出てきた?」
 後ろから、楽しそうに声が飛んだ。
 
「………!」
 俺はゆっくりと、振り向いた。
 右腕を枕にして、寝そべっている。その顔が、息が掛かるほど近くにあった。そして、振り向いた俺の頬を、撫でる。
「こんなに、火照って。……身体、熱いでしょ」
 
 のっそりと起きあがると、俺のはだけている胸に、唇を寄せてきた。
「────っ!」
 抗う前に、身体が跳ねた。
 なに……これは……?
「あッ!」
 ツキンと、刺激が下腹にくる。尖りに、歯を立てられた。
「や……」
 身体を捩って、距離を取る。
 押さえてくる掌が、吸い付いてくる唇が熱い……!
 身体が過剰反応していた。どこを触っても、下半身に刺激が行く。俺のモノは、気が付けば反り返っていた。
 
 ────!?
 なんだ、この感覚…! 直接刺激されていないのに…熱い。
 透明な露も垂れだしていた。動悸が激しくなってくるのが分かる。体中が、汗をかき出している。
「……………っ!」
 声にならない疑問と非難を、視線でぶつけた。
 
「もうわかったと思うけど。……催淫剤ね」
 オッサンの瞳が暗く光っている。口の端だけ、嗤っていた。
「さっき、たっぷり入れたから、持続力がすごいと思うよ」
「─────ッ」
 もう、体内で吸収されている。気持ち悪い圧迫感は、既に無い。
 ……はぁっ……
 呼吸孔からでる吐息も、熱かった。
「う……」
 首を振って、その感覚を追い払った。でも、後から後から、湧いてくる。下腹から、疼き上げる衝動……。
 反り返ったモノが、勝手に揺れる。
 ………そんな馬鹿な…。
 胸をちょっと触ったくらいの刺激しか、まだない。それなのに、身体は……俺のそれは、イきたがって悶えていた。
「あ………はぁッ」
 また、胸に手を這わされて、震えた。唇で尖りをいたぶる。
「んん───ッ!!」
「……はは。すごい効き目」 
 薬のせいで潤んでしまっている俺の目を、覗き込んできた。
「……イきたそうだね」
 反り返っている、先端を指で弾く。
「んッ!」
 俺は夢中で首を横に振った。ゾクゾクと、腰に響く。ちょっとの刺激で、どうなるか分からない。
「でも、だめだよ」
 そう言うと、下に身体を下げて、俺の足の間に身体を納めた。
「………?」
 見えないところで何かをされるのは、とても不安だった。
 重たい首を上げてオッサンを視界に入れると、その手には細い紐が見えた。
「───!」
 あっと思った時には、俺の勃っている根本を、その紐で括ってしまった。
 痛みと束縛感。そして、触れていると言うだけで湧き上がる疼き。それらを同時に与えられて、俺の身体は思いっきり仰け反った。
 
「ぁ、あぁ……っ!」
  
 …………熱い…身体が自分のものじゃないみたいだった。
 


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