chapter8. awakening... oblivion time 忘却の扉
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 4
 
「ハイ、では、克晴君の感度を測る、お時間ですよー」
 
「!?」
 お気楽な声が、いきなりそう言った。
 ───なに? ……何を……
「克晴君、気持ちよかったら、そう言ってくださいね」
 四つんばいになって、俺の上を這い上がってきた。
「………………」
 俺は、眼を見開いて、変なことを言い出したオッサンを凝視した。顔を近づけてくる。
「イきたい時は、そう言ってください。イかせてあげますよー」
 ことさらニッコリ微笑んだ。
「──────」
 俺は顎を退くと、きつく睨み付けた。
 何、企んでんだ……?
 
 得体の知れない笑顔が、急に伏せられた。
「んっ……」
 胸に唇を寄せる。また舌の先で、尖りを弄くってきた。
「はぁ……」
 喉を反らせて、呼吸を確保した。
「……気持ち、いい?」
 俺の醜態を楽しむように、訊いてくる。俺は、首を横に振った。
「……………」
「んんっ……」
 オッサンはそれ以上何も言わず、更に尖りに歯を立てた。
 そうしながら、片手を脇から腹へと滑らせていく。ゾワゾワする疼きが、恐怖も煽る。
 ────それ以上、下を触るな!! 
 目を瞑って、身体を強張らせた。
 
「────ッ!」
 指が……指の腹が、蕾にそっと当てられた。
 少しだけ力が入って、押してくる。でも、それだけだった。そこを、ただ指を当てるだけの刺激で放置する。
 その間も胸の尖りを、唇と指で、弄び続けた。
「あ……あぁ……、あぁ…っ」
 ゾクゾク腰元から湧き上がる疼きが、身体を反らせる。俺は、自分で腰を揺らして蕾を指に擦りつけてしまっていた。
「んんっ──っ」
 背中を這い登る快感。足先、指先まで痺れさせる。
「……克晴?」
 どお? イきたい? と舌での愛撫の合間に、顔を上げて訊いてくる。
 俺は目を瞑ったまま、ただ顔を横に振った。
「あ……」
 身体が小さく跳ねた。
 当てていただけの指を、少し押し入れられた。でも、すぐに抜いてしまう。
「ん…ん……」
 それを、小刻みにやり続ける。
 疼きが溜まっていく。腰が震えて、もっと刺激を要求してしまう。
 ────!!
 嫌だ!
 首を振りながら、心と離れていく身体を恨んだ。
 
 ───嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!
 頭の中で、呪文の様に繰り返す。感じてしまう自分を打ち消すように。
 熱い身体も、甘い吐息も、全部薬のせいだ……。
 ほんとうに……薬のせいで、下半身が燃えるように熱かった。前も、後ろも。
 反り返って露を垂らしている屹立は、そこに心臓があるかのように、脈打っている。オッサンの愛撫に、いちいち喜んで跳ね上がった。
 俺の身体は、只一つのことを求めて、高ぶっていった。
 
 でも……それは許されなかった。
 燃え上がる身体は、途中ですぐ放置されてしまった。
 少し触っては、やめる。奧に行きそうで、手前の刺激だけで終わる。それをずっと、繰り返された。
「…………ん」
 俺は焦れた。
 指が離れる瞬間、身体が追いそうになる。その度、悪魔が囁く。
「気持ちいい? ……もっと欲しい?」
 俺は、声そのものを跳ねつける様に、首を横に振った。
 ───ふざけんな! 冗談じゃない!!
 ……前も思った。身体がどんな反応をしたって、何を感じたって、心は負けない。言葉は言いなりにならない!
 
 ───絶対抵抗…
 
 俺は今回も、やり通すつもりだった。
 目を固く閉じて、身体の反応に、自分の声に羞恥を感じないよう、感覚を切り離して心を閉ざして……。悪魔の声も耳には届かない。
 ただ、この時が過ぎるのを、じっと待つ………。
 
 でも、穿たれた薬の呪縛は大きかった。
 理性や感情じゃ御しきれない性欲が、俺を悩ます。どんなに抑えても嬌声が漏れ、頭で感じる前に、身体が反応した。
 それは、俺にとって真の恐怖だった。身体の奥底に刻みつけられた何かが、呼び起こされる。
 ………おぞましい感覚が目を覚まし出す。
 
 ───これは……薬のせいだ……こんなこと…… 
 足を大きく開いて、咥えた指をもっと奧まで誘ってしまう。
 もっと、もっと……
 声にこそ出さないけど、身体があからさまにそう、語っていた。
 オッサンが、面白そうにそんな俺を見下ろす。そして、しつこく訊いてくる。
 
「克晴?」と、一言だけ。 
 
 “お願い”と、俺が首を縦に振るまで。
 
 ───お願い、イかせて……
 身体が啼いていた。
 ……イきたい………イきたい………イきたい!
 下半身が疼く。俺は首を横に振り続けた。
 
 後ろに挿れられた指が、動きもしないでそこにある。
「ぅ………うん」
 焦れた身体は、勝手に揺れて刺激を求める。膝をすりあわせて、腰を捩ってしまう。
 蕾の内壁は、指を締め付けては緩めるのを繰り返していた。
 ………前を擦って欲しい。
 握って、扱いて、もっと俺を……
「ぁあっ……」
 心の声が聞こえたかのように、後ろの指が動き出した。ゆっくり出し入れを始める。肉壁が吸い付いて、動きの全てを貪る。
「……イヤラシイ、克晴」
 悪魔が嗤った。
「……………っ!!」
 目を瞑って、首を振って、聞かない振りをする。
「ぁっ! ……ぁあ!!」
 反対に、高ぶっている身体は、直ぐに絶頂を目指す。
「────あッ」
 ……もう、いく! 
 そう思った瞬間、指はぴたりと止まった。
「───!!」
 身体が一瞬、硬直する。やり場のない疼きの解消に、俺の目は彷徨った。
「………はぁ……はぁ…」
 
 
「……克晴?」
 ………! ……またか!
「──くッ!」
 俺はまだ、首を横に振る。
 
 
 オッサンが、溜息を付いた。
「………そう言えば、僕、思い出した」
 項垂れて、頭を振る。
「克晴……キミが根を上げた事なんて、一度も無かったよね」
 


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