chapter12. keep my mind -こころをつないで-
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 …何度も何度も。
 優しいキスを繰り返す。僕が先生を見つめるまで。
 でも、僕は目を瞑って動くのを止めてしまった。
 
 克にぃだったら。
 この優しい口付けが……克にぃだったなら。
 目を開けたら、あの、大好きな顔が目の前にあるといいのに。
 
「メグ、愛してる…」そう、囁いてくれた。
 
 同じように、先生が言う。「天野君、好きだよ……」
 
 
 ……こんなこと、ひどいよ。
 なんで、克にぃじゃないの。
 僕の身体は克にぃのためだけに、変わったはずなのに。
 置き去りにして……なんで、ここにいないの…
 
 
 泣き出した僕に、先生が言う。
「静かにしていたら、タオルを外してあげる」
 その声が、変に必死に聞こえて、僕はその顔を見ようと薄く目を開けた。
 滲んで何も見えない。
 タオルを外されて咽せた僕に、また優しい口づけが降りてきた。
 
 克にぃがしてくれるみたいに、ものすごく優しい感触。……唇に、頬に、唇に首に、唇に耳に、唇に……
 ──克にぃ……
 僕の呼吸は熱くなっていった。
 目を瞑っていれば、克にぃを感じられる。
 僕は逃げ道を見つけてしまった。
 どうしたら、この時間に耐えられるか。どうせ受け入れなければならないなら、心だけでも楽になりたい……身体の感覚に心が押し潰されないように。克にぃを感じるんだ。
 
 本当に優しすぎて、錯覚を起こした。
 確かめたくて、少しだけ目を開けてみる。愛しい姿がそこにあるんじゃないかって。
 でも、すぐ瞑る。現実が怖くて。
 舌が入ってきた。克にぃとのキス…僕をとろけさせる。
 そんなキスがほしくて、僕は自分から舌を絡めてしまった。
 
 でも、身体を触りはじめると、やっぱり違うのがわかる。そして、あの痛かった恐怖を思い出す。
「あっ、やぁ……!」
 苦しい。この感覚は、やっぱり、嫌だ。怖い! 怖い!
「せんせい……お願い……ぼく、やだ」
 必死に言って、首を振った。 
「……何が、いや?」
 訊き返しながらも、胸を舌先で弄ってくる。電気が走った。
「あッ、……それ、それが……やだ…」
 お腹が、気持ち悪くなる。
「………なんで?」
 探るような目で、僕を覗き込んだ。
 
 
 先生は……僕の恐怖を見抜いていた。
 喋ってないのに。僕がされたこと、それで怖がっていること……全部わかっていた。
 
 
 
「ぁ……やだ! 先生、……やめて!」
 僕の身体を、熱くしようとする。
「君は、好きなはずだよ」
 そう言って、あちこちを触りだした。
 ……やだ、そんなこと言わないで。そんなとこ触らないで!
 胸を、舌先で弄くられる。腰がぴりぴりと、しびれ出す。
「あんまりうるさいと、またタオル噛ますよ」
 優しいけど怖い、先生の命令。僕は唇を噛み締めた。
 
 身体が……先生の指先で、引き出されてくる。克にぃが僕に教えてくれた、気持ちいい感覚。触るたびに思い出して、どんどん熱くなる。
 ───やだやだ!
 恐怖と、気持ちいいのが、交互に僕を襲う。
 暴れると、縛られた手首が痛かった。恐怖がぶり返すと、痛みと吐き気が来た。体中が一瞬にして冷める。すぐ気持ち良いところを、触られる。腰がむずむずしだして、息が熱くなる。だんだん、だんだん、身体が熱くなっていく。
 ……あ。
 腰が、ビクンとした。お尻…先生の舌先が、入ってくる。
 ───やっ…!
 
 
「先生……先生っ……おねがい! …やめて!」
 指が入ってきた。
 叫びだした口も、また先生の唇で塞がれた。
 先生の舌と指が、僕を熱くする。思わず絡めた舌が、身体をもっとしびれさせる。
 指の出し入れが早くなって、傷められたそこは、先生の優しい舌と指で、柔らかくされていった。
「気持ち良かった時のこと、思い出して……怖い事は忘れて」
 そう、何度も囁きながら、先生の指はお尻の奥底まで入り込んだ。
 …………ッ!!
 何かが、お腹から湧いてくる。身体が思い出して、何かを欲しがりだす。
 
 ……息が熱い。
 助けて、克にぃ…
 克にぃなら、この身体の熱いのを、何とかしてくれる。気持ちよく解消してくれる。
 ……お尻が熱い。
 入ってくる何かに、いちいち跳ねてしまう。僕の身体は、もう言うことを聞かないよ……
 
 目をあけて、僕をいじくるヒトを視界に入れた。桜庭先生が、妖しく笑う。
 
「…………」
 引き出された気持ちよさに、僕の身体は、はやく…と震える。抱え上げられて、熱い先生をあてがわれた。
「…ん、……あぁ……っ」
 仰け反って、それを受け容れた。前のも握られた。
「あっ…いやぁ……」
 一瞬、やっぱり怖かった。
 でも……。
 包んだ手のひらが上下に動き出すと、お尻が反応した。先生を締め付けて、背中に快感を駆けめぐらせる。
 
 
 
 メグ……感じることを、怖がらないで。
 
 そう言って、僕を何度も高みに誘ってくれた。
 どうやって声を出せば楽なのか……焦れた身体をもっと気持ちよくするには、どうしたら良いのか。
 一から十まで毎日毎日……克にぃは教えてくれたんだ。
 克にぃと“する”ことが、どんどん気持ち良くなる。僕が気持ちいいと、克にぃも気持ちいいって、喜んでくれる。
 その声を聴いて、気配を感じて。僕はどんどん身体を慣らしていったんだ。
克にぃだけのために。
 
 
 誰でも良い訳じゃない。
 先生なんか嫌いだ。
 
 縛られた手首が、その痛みが、僕の心を暗くした。“無理矢理”なんだって、ことが。
 
「あっ……あぁ………!」
 それでも、僕の身体は先生を受け容れて、気持ちよくなってしまった。
 腰を振って、高い声で叫んで……先生の手に、その証しを吐き出した。 
 
 
 
「──────」
 悲しみで、がんじがらめだった。
 弄られた僕の身体。
 もう、克にぃに触って貰う資格、なくなっちゃった……
 
 
 
 泣き続ける僕の手首の戒めを、先生が外した。その痕を見て、ぞっとした。
 
 
 
 
 ───この痕は………
 
 見覚えがある、それは……克にぃと行ったホテルで見た。克にぃの手首にあった痣…。
 ───これだったんだ!! 
 “大人に酷いことされた”……あの時克にぃは…そう言っていた。
 青白い光の中、克にぃの顔は泣いていた。
  
  心臓が、ドクンと波打ちだす
 
 僕は、自分に付けられた痣で、やっと克にぃの謎の全てを知った。
 大人に酷いことされた……?
 それで、うずくまって泣いていたんだ。あの朝……克にぃが小さく見えた。
 
  ドクンドクンと、早鐘のように鼓動を打ち出す
 
 “大人”──ただそれだけで、抗えない存在。
 ふだん違う世界に住んでるのに。時々僕たちを捕まえて、その世界を押し付ける。
 
 無理矢理縛られて───克にぃまで、こんなことされてたなんて……!
 
 
 くるしい……いきができない…
 
 
 僕が癒す──なんて。出来るわけ、なかった。
 初めて抱きしめた克にぃの背中。あそこに、……克にぃは居やしなかった。
 今の僕みたいに、深い穴の中に落ちていたんだ。
 
  ── タスケテ
 
 追いかけても、追いかけても、逃げていく克にぃ。
 僕が泣くと、兄ちゃんも、大人になんてなりたくないんだ。そう言ってた。
 寂しそうに笑ってた。
 
 
  ……悲しすぎるよ、克にぃ!!
 
 
 ───克にぃ……そんな思いしながら、僕を愛してくれた。
 
「ふ……」
 僕は両手で目を抑えた。涙があとからあとから、とまらない。
 
 克にぃの痛み、今なら、僕…わかるよ。
 
 
 …………でも、わかったからって……
 
 
 先生が言う。
「克にいの代わりに、ぼくがこの身体の面倒をみるよ」
「だから、毎日おいで」
「丈太郎には内緒だよ」
 
 言葉で僕を脅す。
 心を何重にも縛る。
 そうしながら、その腕は優しく僕を抱きしめていた。
 
 
 
 わかりたくなんか、なかった……こんなこと。
 
 ───今、どこにいるの……克にぃ…
 
 
 
 
 
 
 ───助けて
 
 心がそう叫ぶ。
 ……克にぃも、そうだったのかな。
 
 僕には聞こえなかった。克にぃの叫び。
 僕の声も、誰にも届かない。ただ、心の中で叫ぶ。
 
 
 ───助けて
 
 
 毎日、僕は保健室に通った。
 先生のいいようにされるために。先生のいいように、作り変えられて。
 
 
 
 
 
 
 ……それでも。
 僕が暗い穴の淵でそれ以上沈んでいかないのは、霧島君がいたから。
 霧島君の手が、沈もうとする僕の腕を、絶対に離さない───
 それが、わかったから……
 
 
 僕は、そこに心を繋ぎ止める……
 


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