先輩と内緒シネマ
2.
「……………」
その光景が、あまりに非現実的すぎて……。
僕は、瞬きを繰り返すばかりだった。
「こっちにおいで」
また手を引かれ、奥の部屋のソファーに座らされた。
背中とお尻が沈み込み、踵が床から浮いた。
その両側に、先輩たちが挟むように座る。
「リオちゃん、辛かったね」
またその言葉を繰り返して、佐倉先輩が、僕を背中から抱き締めた。
ソファーに埋もれた身体をずらされて、僕は余計斜めに沈み込んだ。
「……………?」
────辛いって……さっきから……
「今、楽にしてやるよ」
板谷先輩が、正面から僕を覗き込んだ。切れ上がった二重で、涼しげにくすりと笑う。
「そんな顔したままじゃ、また変なのに声掛けられそうだからな」
────え……?
「リオちゃん、口を開けて」
「……佐倉せん…? …んっ……」
横から、頬をすり寄せるように顔を近づけて、僕の唇を塞いだ。
あの時みたいに、優しく舌が入り込んでくる。
「……んんっ……!」
喘いだ胸のシャツのボタンを、板谷先輩が一つ一つ、丁寧に外しだした。
────ちょ……なに……?
「ん──んん……っ!」
抗うと、佐倉先輩に羽交い締めにされた。
「…………あ」
あの時と、まったく同じだった。
「理央……」
はだけた胸の中心に、板谷先輩が舌を這わせる。
「……ぁ…んんっ…!」
僕は思い出した。これを、僕のこんな声をアイツは………
「……板谷先輩、ひどい!」
綺麗な二重が、ちらりと僕を見た。
「あれ……加藤に、観せたんですか……?」
震える息で、胸を愛撫し続ける先輩を非難した。
「───あれって?」
「……なんのこと?」
───────!!
空とぼけられて、まったく話しにならない。
佐倉先輩は、僕の耳に唇を押し付けて、クスクスと笑った。
「ね、リオちゃん、ちから抜いて。僕はこれを教えてあげたい」
「ぁ……」
佐倉先輩のキスは凄かった。
舌が別の生き物みたいに、僕の中で動き回る。
僕の舌を絡め取っては、気持ちいいところを擦ってくれる。
心地よく吸い上げては、あちこち突いてくすぐる。
「ん…んんっ…」
思わず声をあげた。
「俺はこっちを、教えてやる」
「……ぁあッ!」
ズボンと下着を、剥ぎ取られた。
「いいなぁ、リオちゃん」
「………よく……ないですよぉ」
僕は、泣きたかった。
こんな恥ずかしいカッコにさせられて、イイもなにも……
「……板谷の指、気持ちよかったでしょ?」
「……………」
僕は思い出して、小さく頷いた。
顔は既に、真っ赤っかだと思う。恥ずかし過ぎて、頬が痛いくらい熱い。
「また……何か撮るの……?」
2本目のビデオを撮影して、また脅しのネタにでも、するのだろうか。
「そんなことしないよ」
とろんとした僕の声に、佐倉先輩がくすりと笑った。
「お前が、あんま、辛そうな顔をしてるから」
板谷先輩も、優しく囁く。
「これは特別。プレゼントだな。……偶然お前を見付けて、良かった」
……プレゼントって……
いらない、僕。そんなの───
「この経験が役に立つと、いいね」
「理央が出会う、大事な誰かに、教えてヤレ」
二人して、声を潜めて笑っている。
「…………」
その言葉を、僕はまた勘違いして聞いていた。
僕が出会う”女の子”かと思ってたんだ。
よく考えたら、そんなはずあるわけなかった。
だって……
「アナルは、バージンのままにしといてやる」
「でも、開発はしようね」
その行為は……女の子とのエッチには、関係ないことだった。
「先輩! いいです……僕、いらない………」
焦っても、もう遅かった。
佐倉先輩が、また唇を塞ぐ。
胸の尖りを弄ってくる。
「んっ……ん」
───あッ!
開かされた脚の根本に、板谷先輩が顔を埋める。
後ろに、生温かい舌が入ってきた。
「あッ、ぁあッ……」
腰を浮かせて振ってしまう。
充分濡らされて、指にすり替えられた。
「んん───っ!」
そこから背中にかけて、何かが走り抜ける。
ゆっくりゆっくり、……中を探るように人差し指と中指を、揃えて抜き差しする。
指を曲げては、何処かを擦る。
「んっ、んっ、んっ…」
優しく優しく、いつまでも…僕の中の何かを待つみたいに。
「…………はぁ……はぁ……はぁ……」
だんだん僕の息は、指の出し入れに合わせて、熱くて浅い呼吸を繰り返し出した。
「理央……今回はフィルムには撮らないけど───」
板谷先輩の低い声。
「お前の身体で、覚えておけ」
……はぁ………はぁ………?
「お前の五感というフィルムに、焼き付けろ」
「リオちゃん、これは内緒の撮影会。…今日のことは、誰にも内緒だよ」
───誰にも……?
「だから、記録は記憶の中だけだ」
「…………」
僕は、曖昧に頷いた。
───加藤にも、観せない。
「覚えておいて。高2の夏に、こんな映画があったってこと」
佐倉先輩の濡れたような瞳が、揺らめく。
「僕たちも──最初は大変だったんだよ」
────え?
「………サクラ」
「………ん」
シルエットが重なる。
僕の目の前で………
あの時と同じだった。僕を挟んで、目の前で短いディープキス。
2.3回舌を絡めて、離れた。
それこそ、映画のワンシーンだった。
佐倉先輩の熱っぽい視線を、板谷先輩が、愛おしそうに受け止める。
「……………」
これは……このクランクインは、先輩たちが主役なんだ。
前回みたいな、僕のアダルトビデオなんてものではなかった。
先輩の指が、また入ってきて、同じ動きを繰り返す。
掌を上に向け、僕の中の上側を探る。
………ゆっくり、ゆっくり指を抜き差しする。
「ん………ん………」
だんだん焦れったくなってきた。
時々、ゾクリとする刺激がくる。
でも、熱を持って勃ちあがってしまっている前のを、満足させるような波は来ない。
「んぁ………せん……ぱい……」
腰を捩って身悶えたのを合図のように、板谷先輩の舌が、僕のそれを舐めだした。
指の動きに連動させるように、裏スジ、袋を舐め上げる。
「んぁああっ……!」
堪らずに、仰け反った。
その身体を受け止めて、佐倉先輩が呟いた。
「いいなぁ、リオちゃん」
羨ましそうな声。
「……佐倉」
板谷先輩が反応して、顔を起こした。
伸び上がって、顔を寄せ合う。
チュッという軽いキス。
「もうちょっと、待ってろ……な…」
佐倉先輩に優しい声でそう言うと、ソファーの足元のボックスから何かを取り出した。
「…………!!」
僕も、本とかで見たことがあるアイテム第2弾だ。
今日も、そんなおもちゃを使うとは、思いもしなかった。
「やっ……そんなの……!」
「こないだのよりラクだから、力抜いてろ」
そう言うと、僕の垂らしている透明な液体に擦りつけて、それ全体を濡らした。
「んっ…ぁああッ…!」
腰が跳ねてしまう。
丸く細まった先端を、後ろにあてがい、ゆっくりと挿入される。
「やっ………ああぁ……!!」
ピンクの楕円型をしたそれは、コードを繋げたまま、僕の中に完全に押し込まれた。
更に指で追いやって、腸内の奥底に、送り込む。
「ぁああ、やだ…先輩、やめて………」
異物感が、気持ち悪い。
「ん…」
…いやだ…排泄感みたいのも……
押し出そうとする腸の感覚が、挿れられる感じよりもっと怖い気がした。
「中でくわえ込め」
………? …そんなこと、言われても………
ふふ、と耳元で佐倉先輩が笑った。
「それはまだ、ムリだよねえ」
額に汗で張り付いている、僕の前髪を掻き上げてくれる。
「指を抜いて、上から揉んであげて……僕にしてくれたように」
「……ああ」
ローターだけ中に残して指を抜くと、掌の親指の付け根の部分を、コードをはみ出させたソコに押し付けてきた。
「んぁッ………!」
僕はまた仰け反った。身体が上下するほど、押し揉み上げてくる。
反対の手で、僕の揺れている熱いのを握り込んだ。
指先で縒り上げるように揉みしだきながら、先端から袋までを何度も往復させた。
「ぁあっ! ぁあッ……ぁぁあッ………!」
めちゃくちゃ気持ちが良い。
その手の動きは、さっきまでの焦らしを完全に解消してくれた。
「ぁあ、あ、あ、あ……」
動きに合わせて、喘いでしまう。
「……サイコーでしょ…。板谷の指テク……」
溜息のように、佐倉先輩が耳元で囁く。
「……佐倉」
「……ん」
板谷先輩が、また身体を伸び上がらせた。
僕を喘がせながら、目の前でまたディープキスのショーを始めた。
お互いを飲み込んでしまいそうなくらい、押し付け合う唇。
喉の奥まで舌を絡めて、舌面を密着させ合っているのが判る。
佐倉先輩の喉が、時々嚥下した。
そうかと思うと、唇は離して、舌先だけを尖らせて絡め合う。
ピチャピチャと軽い音をわざと立てて、絡んでは逃げてを繰り返したり。
そんなときは、薄目を開けて、見つめ合っている。そして微笑む。
熱い吐息───
「………はぁ…」
………楽しそう。……気持ち良さそう……僕まで、喘いだ。
ネコみたいに目を細めて、佐倉先輩は板谷先輩を受け入れていた。
「………んっ…」
ひとしきり戯れると、佐倉先輩が小さく喘いだ。
やっと唇を離す2人。
「……あとでな」
「…うん」
視線を絡めて、サインを送り合っている。
「…………」
僕は、自分が激しく邪魔な存在に思えてきた。
僕の視線に気付いた板谷先輩が、笑った。
「ごめんな、こいつ、すごいやきもち焼きで…」
「………………」
無言で頷く僕に、佐倉先輩の熱くなった唇が降りてきた。
「リオちゃんは特別。平気の筈なんだけど…ごめんね」
たった今、板谷先輩から受けたキスの熱を、そのまま僕に注ぎ込んでくる。
「ん…んんッ……んぁああ……」
自分で息をしているのか、させられているのか、そんなことすら判らなくなるくらい、翻弄された。
「アッ! ───ァアアアアッ!!」
いきなり、体内で何かが暴れた。
ローターのスイッチを入れられたんだ!
「ああぁ! ………ぅぁああぁぁ……」
すご………すごい……
前にくる刺激が、強すぎる。
仰け反ったり、腰を捩ったり……身体が勝手に反応した。
肩は羽交い締めで、唇は塞がれたまま。
下半身は、M字に開脚した状態で、足首をソファーに押さえ付けられていた。
やめ…!! ……やめて…………せんぱい!! 離してッ───
「んんっ…! んん──────っっ!!!」
ローターが動いただけで、僕の身体はすぐに絶頂を目指した。
それに合わせて、前をすっぽりと咥えられて……、板谷先輩の唇が上下に動く。
「………ぁああ!!」
───気持ちいい!!
ぁああ──いく……いくっ…イクッ…せんぱい………!!
「────っ!!」
ドクンッと震えた腰は、先輩の口の中に白濁を飛び散らせていた。
何度も何度も…恥ずかしくてもう、自分でも嫌って程…
そんな僕の出したのを、板谷先輩は全部口で受けたあと、最後は綺麗に吸い取って、お尻の中のも抜いてくれた。
「…ん………はぁ……はぁ…はぁ…」
何もかも熱くて、体中の震えが全然止まらなくて…
僕は涙目で、荒い呼吸をずっと繰り返し続けた。
「……良かった?」
僕を抱えながら、佐倉先輩が頬を寄せてきた。
僕は、もう……ただただ、頷くだけだった。
そのあと……先輩たちのシネマは、続いていた。……みたいだった。
寄り合うシルエットと、密かな笑い声……
それを感じながら、僕は2回目のエッチな体験に、クタクタになって────
目を覚ますと、佐倉先輩が隣にうつぶせで横になっていた。
「………………」
間近のその顔を、霞む頭でぼんやりと眺めた。
上気してピンク色の頬。汗で髪の毛が顔に張り付いている。
閉じた睫毛は濡れて光っていた。
紅い唇は少し開いて、熱い吐息を今も小さく弾ませている。
───色っぽいなぁ……
動き出した頭で、そう思って赤面した。……先輩たち…。
「こいつもね……」
佐倉先輩の黒髪に、指が差し込まれた。
目線を上げると、床に座り込んだ板谷先輩がソファーに寄り掛かって、佐倉先輩の頭を撫でていた。
「理央と同じ……終わるとすぐに、寝込んじまう」
愛おしそうに顔を寄せて、そっと黒髪を梳く。
「…………………」
………クランクアウトだ……と、思った。
全裸でソファーに丸くなる佐倉先輩。その肩には、板谷先輩の開襟シャツが掛けてある。
床に座り込んで、その寝顔を眺めている板谷先輩もまた、裸に薄いシャツ一枚引っかけてるだけ。
板谷先輩が伸ばした手は、佐倉先輩を起こさないように、そっと頭に乗せたまま止まっていた。
僕は、佐倉先輩が落ちてしまわないように、もっと奥へ身体を寄せたかったけれど…起こしてしまいそうで、動けないでいた。
あの、絵になるキスシーンから始まって……
音もない、静かな世界。
もう、なにも動かない。
幸せと、不安と…泣きたくなるような想い合い…
……この二人の空間を、壊したくなかった。
僕は、このラストシーンを、絶対…忘れない────
僕は──先輩たちの内緒の映画に、少し出演させてもらっただけだった。
二人だけの、あの城で……
その始まりを、見せてもらったんだ。
これから先、何度も繰り返すだろう、あのシーンを。
自分のベッドの中で、寝返りを打っては、それを思った。
────羨ましいな。
合宿の時、そう思ったけど。
先輩二人の間の、空気。
信頼しあっているあの特別な波長は、そういうことだったんだ。
親友じゃなくて……恋人同士だったんだ。
────ずるいよ、そんなの
溜息をついて、加藤の顔を思い浮かべた。
───加藤は……僕をどうするつもりなんだろう……
「公貴が、何か言ったのか?」
板谷先輩が、最後に聞いてきた。
僕は黙って、首を振った。
何も言わないから、怖いんだ。
”リオ”といきなり呼んできた。
アイツのあの呼び方……あれが怖い。僕には、無言の圧力にしか思えない。
命令してくる。
”俺に従え”と……。
「公貴が何かしようとしてるなら、それはあいつ自身で考えていることだ。俺らには、関係ないよ」
そう、涼しい顔をして笑った。嘘つき先輩。フィルムは見せてるくせに。
……関係ないはず、ないじゃないか!
また寝返りを打って、自分で身体を抱き締めた。
───今日はもう平気だけど……また、変になったら、どうしよう。
それも、不安の一つだった。
───こんな身体にしてくれちゃって……
───先輩たちのバカーーッ!!
僕は頭の中で、板谷先輩をけっ飛ばした。
夏休み最後の日、加藤が僕を呼び出した。
───どうしよう
話しがあるから、とにかく駅まで出て来いという。
話しったって……どうせ、アレにきまってる。
入部してくれとか、映研を助けろとか。
……加藤一人じゃ、どうにもなんないのは僕だって、わかる。
でも、人数あわせに僕なんかが入部したって、迷惑かけるだけなのに。
それが、嫌なのに……。
───あんな卑怯な言い回しで、脅してくる加藤……
アイツの光る眼鏡を思い出して、身体が竦んだ。