chapter8. awakening... oblivion time 忘却の扉
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「ハイ、では、克晴君の感度を測る、お時間ですよー」
「!?」
お気楽な声が、いきなりそう言った。
───なに? ……何を……
「克晴君、気持ちよかったら、そう言ってくださいね」
四つんばいになって、俺の上を這い上がってきた。
「………………」
俺は、眼を見開いて、変なことを言い出したオッサンを凝視した。顔を近づけてくる。
「イきたい時は、そう言ってください。イかせてあげますよー」
ことさらニッコリ微笑んだ。
「──────」
俺は顎を退くと、きつく睨み付けた。
何、企んでんだ……?
得体の知れない笑顔が、急に伏せられた。
「んっ……」
胸に唇を寄せる。また舌の先で、尖りを弄くってきた。
「はぁ……」
喉を反らせて、呼吸を確保した。
「……気持ち、いい?」
俺の醜態を楽しむように、訊いてくる。俺は、首を横に振った。
「……………」
「んんっ……」
オッサンはそれ以上何も言わず、更に尖りに歯を立てた。
そうしながら、片手を脇から腹へと滑らせていく。ゾワゾワする疼きが、恐怖も煽る。
────それ以上、下を触るな!!
目を瞑って、身体を強張らせた。
「────ッ!」
指が……指の腹が、蕾にそっと当てられた。
少しだけ力が入って、押してくる。でも、それだけだった。そこを、ただ指を当てるだけの刺激で放置する。
その間も胸の尖りを、唇と指で、弄び続けた。
「あ……あぁ……、あぁ…っ」
ゾクゾク腰元から湧き上がる疼きが、身体を反らせる。俺は、自分で腰を揺らして蕾を指に擦りつけてしまっていた。
「んんっ──っ」
背中を這い登る快感。足先、指先まで痺れさせる。
「……克晴?」
どお? イきたい? と舌での愛撫の合間に、顔を上げて訊いてくる。
俺は目を瞑ったまま、ただ顔を横に振った。
「あ……」
身体が小さく跳ねた。
当てていただけの指を、少し押し入れられた。でも、すぐに抜いてしまう。
「ん…ん……」
それを、小刻みにやり続ける。
疼きが溜まっていく。腰が震えて、もっと刺激を要求してしまう。
────!!
嫌だ!
首を振りながら、心と離れていく身体を恨んだ。
───嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!
頭の中で、呪文の様に繰り返す。感じてしまう自分を打ち消すように。
熱い身体も、甘い吐息も、全部薬のせいだ……。
ほんとうに……薬のせいで、下半身が燃えるように熱かった。前も、後ろも。
反り返って露を垂らしている屹立は、そこに心臓があるかのように、脈打っている。オッサンの愛撫に、いちいち喜んで跳ね上がった。
俺の身体は、只一つのことを求めて、高ぶっていった。
でも……それは許されなかった。
燃え上がる身体は、途中ですぐ放置されてしまった。
少し触っては、やめる。奧に行きそうで、手前の刺激だけで終わる。それをずっと、繰り返された。
「…………ん」
俺は焦れた。
指が離れる瞬間、身体が追いそうになる。その度、悪魔が囁く。
「気持ちいい? ……もっと欲しい?」
俺は、声そのものを跳ねつける様に、首を横に振った。
───ふざけんな! 冗談じゃない!!
……前も思った。身体がどんな反応をしたって、何を感じたって、心は負けない。言葉は言いなりにならない!
───絶対抵抗…
俺は今回も、やり通すつもりだった。
目を固く閉じて、身体の反応に、自分の声に羞恥を感じないよう、感覚を切り離して心を閉ざして……。悪魔の声も耳には届かない。
ただ、この時が過ぎるのを、じっと待つ………。
でも、穿たれた薬の呪縛は大きかった。
理性や感情じゃ御しきれない性欲が、俺を悩ます。どんなに抑えても嬌声が漏れ、頭で感じる前に、身体が反応した。
それは、俺にとって真の恐怖だった。身体の奥底に刻みつけられた何かが、呼び起こされる。
………おぞましい感覚が目を覚まし出す。
───これは……薬のせいだ……こんなこと……
足を大きく開いて、咥えた指をもっと奧まで誘ってしまう。
もっと、もっと……
声にこそ出さないけど、身体があからさまにそう、語っていた。
オッサンが、面白そうにそんな俺を見下ろす。そして、しつこく訊いてくる。
「克晴?」と、一言だけ。
“お願い”と、俺が首を縦に振るまで。
───お願い、イかせて……
身体が啼いていた。
……イきたい………イきたい………イきたい!
下半身が疼く。俺は首を横に振り続けた。
後ろに挿れられた指が、動きもしないでそこにある。
「ぅ………うん」
焦れた身体は、勝手に揺れて刺激を求める。膝をすりあわせて、腰を捩ってしまう。
蕾の内壁は、指を締め付けては緩めるのを繰り返していた。
………前を擦って欲しい。
握って、扱いて、もっと俺を……
「ぁあっ……」
心の声が聞こえたかのように、後ろの指が動き出した。ゆっくり出し入れを始める。肉壁が吸い付いて、動きの全てを貪る。
「……イヤラシイ、克晴」
悪魔が嗤った。
「……………っ!!」
目を瞑って、首を振って、聞かない振りをする。
「ぁっ! ……ぁあ!!」
反対に、高ぶっている身体は、直ぐに絶頂を目指す。
「────あッ」
……もう、いく!
そう思った瞬間、指はぴたりと止まった。
「───!!」
身体が一瞬、硬直する。やり場のない疼きの解消に、俺の目は彷徨った。
「………はぁ……はぁ…」
「……克晴?」
………! ……またか!
「──くッ!」
俺はまだ、首を横に振る。
オッサンが、溜息を付いた。
「………そう言えば、僕、思い出した」
項垂れて、頭を振る。
「克晴……キミが根を上げた事なんて、一度も無かったよね」