chapter4. blood ceremony -血の饗宴-
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 1
 
「───俺に……俺に触るなッ!!」
 
 
 
 克晴に突き飛ばされて、僕はベッドの上で、後ろに手を突いた。
 びっくりして、そのまま克晴を見つめる。
 
 逃げた小鳥をやっと捕まえて……やっと熱が引いて、目を覚ましたところだった。
 心がここに無いような克晴。ぼんやりしてて……。
 でも僕の愛撫に反応して、正気に戻ってくれた。嬉しくて、安心して、思わず抱きしめてしまったのに。
 
 
 そして、克晴の言葉はさらに、僕を驚かせた。
 
 
「お前はもう、終わったんだ! 俺の中にはいないんだ、今更出て来んなよ!」
 
 ────!!
 
「しつこいんだよ、なんで俺なんだ!」
「いい加減、父さんとこイケよ! ……馬鹿じゃねぇの? アンタ!!」
 
 ………え? ──先輩?
 
「もういいだろ!? なんでこんなこと、繰り返すんだ!」
「病気も大概にしろよ! ……大っ迷惑だッ!!」
 
 
 
 全身から炎が噴き出すような、克晴の叫び。部屋中に、その絶叫がビリビリと響き渡る。
 
「─────っ!」
 
 言い返そうとした僕の心に、体に、所構わずその炎の矢は激しく突き刺さった。
 あんまり熱くて、痛くて、……思考も体も一瞬、硬直してしまった。
 
 …………違う……違う!
 
 否定したいのにできない。
 克晴の憎しみで灼かれた僕の心は、どんどん火傷を広げていく。
 喉も灼かれた。痛すぎて、声が出ない。
 
 
 好きなのに
 好きなのに
 こんなに好きなのに……
 
 
 口の中だけで、繰り返す。
 
 
 もういい加減にしろ、……だって?
 なんで俺なんだ? ……だって? ……そんなの……
 
 ───だって、克晴が好きなんだ。
 もう、先輩じゃないんだ!
 
 今更じゃない。
 僕には、これからなんだから……。
 
 頭の中で、抉られた傷を克晴への想いで塞いでいく。
 
 
 
 ……好きなのに
 ……好きなのに
 
 
 
 ……こんなに克晴が好きなのに……
 口の中では、それだけ繰り返す。それだけを伝えたくて────
 
「───かつ…はる……」
 
 掠れた声で、その名を絞り出した。
 
 
 
 見つめた愛しい顔は、まだ燃える眼で、僕を睨み付けている。
 
 
 
 ………言えない。
 言えるはずがない。
 こんな酷いコトして……本当の心なんて、伝わるはずがないんだから……
 悲しくて、首を横に振った。
 
 想いは、口の中でだけ、こだまする。
 
 
 ───そして
 諦めた心は…別の手段で、愛する者を拘束しようと、計算を始める──
 
 
 
 
 
 
 
 
「……そう。やっぱ、こうなるんだ」
 
「───?」
「克晴……僕はね……いつだって、もっと優しくしたかった」
 
 目の前にある、眉を顰めた怪訝な顔…こんな表情ですら、愛しいよ。
 抱きしめて、好き、と言えたら……
 優しくキスして、愛してる、と言えたら……
 ───切なくて、胸がきりきりと締め付けられた。
 
 
 心では泣きながら、下半身が疼きだす。
 火傷でタダレた傷と一緒に、ズキズキと疼き出す。
 
 この痛みは、克晴自身でないと、止められない───と。
 もう、僕のスイッチは入ってしまった。
 克晴は知らない。
 僕の残虐性を煽るのは、いつでも克晴本人なのだということを。
 
 
 
 
 特注で作らせたカフスプレートは、申し分なかった。
 引き合ったプレートのリングと、ベッドの鎖を繋ぐ。克晴の怯える顔が、僕をますます興奮させる。
 
 
「……久しぶりなんじゃない? こんなの付けるの」
 そう言いながら、ギャグを噛ませた。
 僕にとっても、久しぶりの感覚。以前は制服プレイの時、必ず噛ませていた。初めは怖がって、いっつも暴れて嫌がっていた。
 でもだんだん回数を重ねる事に、克晴もいい子になっていって……
 
 学ランのまま後ろ手に縛られて、ベッドに座り込む克晴。その背後に立って、口元にこれを突き当てると、項垂れたまま咥えるんだ。
 首の後ろでベルトを締めて、固定している間中、俯いてうなじを僕に晒している。横顔を覗き込むと、必ず眉根を寄せて目を閉じていた。苦渋に耐えているように。
 
 ……懐かしいな。
 
 育ってしまった克晴を、見つめ直す。
 泣きそうな目で、気丈に睨み付けてくる。
 上気させた頬に、細い革ベルトが食い込んでいるのが、すごいイヤラシイ……。
 
 こんな表情ひとつでも、もう昔とは違う。
 色っぽくて、身体なんか、エロ過ぎて……
 以前のような、庇護欲を掻き立てさせる幼さは、微塵もない。
 でも眼は……睨み付けてくる、この眼光だけは変わっていなかった。
 
 
 僕は…19歳の克晴に、あらためて恋してしまっていた。
 もう、本当にオッサンなんて呼んでほしくない。
 
 
 ───そう、もう呼ばせない。
「お仕置き第2弾だよ」
 僕のものになった克晴に、教え込む。
 
「ただ、一言。“イエス”と頷く……そこから、始めようね……」
 
 
 
 
 克晴の中に、クスリを挿れて、指を入れて……
 
 何度も何度も、その身体を高めてあげた。
「ぁあ……ぁあああ!」
 身悶えて、腰を捩る。頬を紅く染め、吐息まで熱い。
 クスリのせいで、目まで潤んでいるのが可愛い。
 口は封じて正解だった。ギャグのおかげで、悪態を聞かなくて済むのは、やっぱり良かったから。
 
 
「……克晴?」
 何度も訊いてみる。
「気持ちいい? ……もっと欲しい?」
 
「…………」
 その度、サラサラの前髪は横に揺れた。
 感度の良い体は、下半身が……前も後ろも……限界を超えているはずだった。
 イきそうになると、僕は愛撫をやめた。
 口の中で大きくなって、震え出すから、すぐわかる。
「………はぁっ……」
 とたんに、克晴の高まりが萎えていくのも分かる。
 焦れて、腰を捩る。
 中に入れっぱなしの指に刺激を感じると、恥ずかしそうに目を瞑って顔を背ける。
 鉄の棒を噛み締めてる、口の端から覗く犬歯も、格好いい。
 まるで牙を剥き出して、威嚇してるみたいにも見えるのが、ちょっと悲しいけど…。
 唾液が首を伝っていて、それにも恥じて、目を伏せる。
 
 ………愛しい……
 
 抱きしめて、“ごめんね”と、言いたくなる。
 こんなこともうやめて、精神も身体も、解放してあげたくなる。
 ……でも、ダメなんだ。
 克晴は、絶対僕を振り向かない。こうでもしなきゃ、一生名前なんか呼んでくれない。
 
 
 何でなんだ。
 ───何でこうまで、頑ななんだろう……
 
 
 この状態がどれだけ辛いか、……僕はよく判る。イヤってほど知ってる。
 僕は……ここまで耐えられなかった。
 だから克晴だって、数回繰り返せば堕ちると、思っていたんだ。
 
 だから、……やり過ぎてしまった。
 
 
「あっ………あぁっ、やぁ………」
 腰を跳ね上げて、感じながらも、抵抗する。
「ヤじゃないはずだよ。ちゃんと感じて……」
 言葉でいたぶると、後ろをきゅっと締めてくる。
 こんなに反応するのに……
 身体は応えてくれるのに……
 
「そんなにイヤなの? ……僕にお願いするのが…」
 悲しくなって、つい訊いてしまった。
 
 僕の問いかけに、克晴が反応した。
 
 仰け反っていた頭が、起きあがる。
 上気させた顔の虚ろな眼が、眉をつり上げて僕を捕らえる───
 
 


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