chapter4. blood ceremony -血の儀式-
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 4
 
 僕は、信じられなかった。
 
 あんなに頑なだった克晴が……。
 どんなに酷いことをしたって、決して快感を受け入れることだけは、しなかったのに。
 
 
 なんでこんな、急に……
 よっぽど下着が、穿きたいのかな…自由がほしいの…?
 
 
 僕がイヤだから受け入れるのか。
 僕でいいと思ってくれたのか……
 
 複雑な不安が、胸をもやもやと渦巻いた。
 それでも、目の前の克晴が愛しくて……くだらない思考は、やっぱり後回しだった。
 
 もう一度唇にキスをしながら、手を下の方へ移していった。パジャマのズボンを脱がす。今の愛撫で、もう克晴のペニスは勃ち上がっていた。
 
「……とろとろ」
 指の先で、先端の露を掬い上げた。
「───!!」
 目を瞑って、顔を背ける。その頭を撫でた。
「克晴……ちゃんと胸で感じたね。今の、忘れないで」
 頬にキスすると、僕は克晴の腰元へ移動した。
 広げっぱなしだった新しいパジャマを、掛布ごと足元に追いやって。
 
「………ぁ」
 一瞬抗う腰を、やんわりと押さえ付けて、熱い先端を舐めた。
「んんっ……!」
「そんな、リキまないで…克晴」
「……………」
「もう一度言うよ……感じることを、怖がらないで」
 じっと僕を見てくる。
「体中で、感覚を受け入れて。……腰の奥底に響き渡るように」
 優しく微笑みで応えると、先端とくびれを、そっと口に含む。
「……ぁ……ぅあ…」
 唇を被せて、少しづつ下にさげていく。
「あ……あぁ」
 上半身を仰け反らせて、全身を震えさせる。
 いつもより声が高い。
 僕も、興奮しだした。垂れている露で指を濡らすと、蕾に軽くあてがった。
 
「ぁあ……!」
 か細い悲鳴。
 
 
 
「ま……雅義……」
 焦ったような声が、上から降った。
 明らかに、今までと反応が違ったのは、分かった。
「───?」
 僕は顔を上げて、克晴を見た。
 真っ赤な顔で……困ったように眉を下げて。
 それは、まるっきりあの頃の克晴だった。
 眼光だけは鋭く…でも、泣きそうな口元。途方に暮れたように、そこにぽつんと座り込む。
 
 ────克晴……
 
「いい……もう、いい……」
 首を振って、そんなことを言い出した。
 
「……いいって……」
 解しナシでいいってこと? そんな訳にいかないだろ。
 
 僕はあてがった指を、そっと埋め込んでいった。
「あっ! や……」
 急に腰を退く克晴。
「やめろって……もう、いいからっ……!」
 怒り口調になってきた。
 
 僕は訳がわからない。いいって言われたって……。
「……やめてどうするのさ?」
 指を動かしながら、訊いてみた。
 何を考えているんだ、いったい。
 
 蕾が、きつく締まる。中までぎゅうぎゅう締まっている。
 さっきの愛撫くらいで、こんなに感じているのが、不思議だった。
 克晴も、それが嫌なのかな。
「ねえ、どうしたの?」
 指を増やしながら、不可解で訊いてしまう。

「あっ……やめ……やめろって! ……雅義!!」
 悲鳴のように裏返った声だった。
 でも、怒気を含んでいて、僕の気に障った。
 
「克晴……随分、勝手なこと言ってない?」
 
 仕掛けてきたのは、克晴なのに。
 僕は、出来るだけ優しく…大事に大事に扱ったのに。
 
 見返してくる顔に、可愛気はもうなかった。
 いつもの克晴。
 その口が開く。
 
 
「──やっぱ、……いやだ」
 
 
 
 
 その言葉に──
 
 僕の心が音を立てた。
 不気味な、破壊の音……
 
 
 その気にさせておいて。喜ばせておいて。
 
 ───錯覚させたのが、一番の罪……僕に、心を開いたのかと──
 
 
「克晴……」
 声が震える。
 
「このまま終わるなんて、思ってないよね」
 
 自分でもぞっとするくらい、低い…暗い声。強引に、指を三本に増やした。
「………やっ…」
 泣きそうな声。
 首を横に、振り続ける。
 
 
 愛してる
 
 
 そう伝えたかった。
 でも、言ったって理解出来ないだろう。
 前はそう思って、諦めていた。
 
 今回もまた、諦めていた。
 ホントの気持ちが伝わらないなら、言っても無駄だって。
 でも違う。
 言って、拒否されたら……“好き”と伝えて、それを今みたいに拒絶されたら。
 それが怖かったんだ。
 
 
 
 始まって、壊れてしまうなら、始まらない方がいい。
 ──このまま、刻が止まればいいのに──
 そう思ったあの頃の、あいまいな関係を維持しようとしていたんだ。僕は。
 
 
 
「…………」
 哀しみが、ミシミシと心を押し潰す音を立てる。
 僕はそれを聞きたくなくて、悶える克晴に没頭した。
 
 僕の指に喘いで横たわっている、綺麗な身体。
 その胸に、普段はないモノが、目に付く。
 僕の愛の証…赤紫の痣をいっぱい散らして。
 
 そんなの付けさせたくせに、僕を拒否する。
 ……なんなんだよ!
 
「克晴の……馬鹿……」
 
 どうせ嫌われるんなら……もういいや。
 僕の好きにしてやる。
 
 僕は指を抜くと、克晴の腕を引っ張って、上半身を起こさせた。
「────!」
 不意を食らって、簡単に前倒しになった身体を受け止めた。両腕を後ろに回させる。
「──なに……」
 慌てた克晴の、抵抗。
 
 でも、もう遅いよ。
 僕は嗤った。
 
「………アッ!」
 金属がぶつかる音。
 
「…痛ぅ」
 顔を顰めて、首を振る克晴。
 その身体は、後ろ手に拘束されて、僕に抱きかかえられていた。
 
「克晴……さっきので僕、興奮しちゃったんだよね」
「………?」
 不可解な表情で、顔を起こして見上げてくる。
 その顎を掴んで、口を少し開けさせた。
 
「──!?」
 
 驚いて、身体を後ろに退こうとしたけれど、僕はそれを許さない。もう片方の手で、首の後ろを押さえた。
 
「ここで、して」
 
 口をもっと強引に開かせて、紅い舌を眺めながら、冷たく言った。
 克晴の眼が、恐怖に歪んだ。
  
 ───君が、悪いんだ。
 
 僕はもう、可哀想なんて思わない。
 して欲しかったことを、やらせる。
 
 克晴の太腿に跨り、膝立ちになると、ズボンの前を開けた。
 
「や───」
 
 克晴が青ざめた顔で、逃げようとする。その口に、取りだした熱い怒張を押し付けた。
「────!!」
 くぐもった悲鳴。
 
 ────ああ……
 
 僕も心で悲鳴を漏らした。
 温かい克晴の咥内。
 無造作に押し付けてくる舌が、ぬらぬらと僕を刺激する。
 駄目だよ、そんな動かし方じゃ……
 
「唇、すぼめて」
 僕の声に、目線だけ上げる。
 吐き出したそうに、時々口を大きく開けている。もっと、美味しそうに頬張ってよ。
 克晴の後頭部をしっかり固定して、口から外れないように手で押さえた。そして、腰を押し付ける。
 
「んんーっ!」
 
 嫌がって、悲鳴を上げた。
 
「僕がイかないと、これは終わらないよ」
 
 ビクッとして、また視線だけ、見上げてきた。
 その目を見下ろして、冷たく言った。
 
 
 
「言うこと、聞いて。克晴」
 
 


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