chapter4. blood ceremony -血の儀式-
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 6
 
 ────克晴……
 
 
 ぎゅうっと胸が、痛くなる。
 もういいから……と、解放してあげたくなる。
 でも、突っ走る性欲がそれをさせない。
 僕は最後までやりたい。
 そして、克晴には認めさせたい。“快感”を受け入れてほしい。
 
 これはやはり、初めてしまったゲーム。
 ───僕が、勝つんだ。
 
 
「……わかった。僕が動くから」
 寄りかかる体を引き剥がすと、克晴の枕元にあった大きいクッションを引き寄せて、自分の背中に回り込ませて当てた。
 これで、寝そべっていても、上半身を支えられる。
 
 腰を動かし始めると、克晴が揺れた。
「ッ……ぁああ……く……」
 下から突き上げるように、打ち付ける。
「……ぁああ、ぁああ! ……ヤ…嫌だッ」
 一度激しく仰け反ると、首を振って、身悶え始めた。
「やめろって……! 雅義──!!」
 悲痛に叫ぶ。
 バランスを取れない半身が、僕の上に倒れてきた。その肩を、両手で支えてあげる。首をがくんと垂れ下げて、僕が支えた肩だけで、上体は保たれていた。
 繋がっている部分が、激しく痙攣しながら、僕を締め付けてくる。
 
 
 熱い身体を受け止めていると、愛しくて愛しくて───
 抱き締めてしまいたい衝動に、何度も駆られる。
 でも同時に、正反対の感情………。
 何故ここまで、非情になれるのか──絶対許さない、僕がいる。
 
 
 
 克晴にとって、これは儀式なんだ。
 ゲームなんて甘いモンじゃない。
 コレを受け入れて、……変わらなきゃいけないんだ。
 
 僕の“愛撫”という洗礼を浴びて───
 
 
 
「克晴……」
 前髪で隠れた顔に、囁きかけた。
「気持ちいい……最高……」
 言いながらも、腰は止まらない。
「あぁっ、ああぁっ……」
 突き上げるたびに漏れる喘ぎも、堪らない。抑えながらも、掠れて上擦る。
 なんて色っぽいんだろう……聞き惚れて、ますます欲情した。
 
「あっ! ……ぅ…ぁああっ!」
 大きくなった僕に、克晴が反応した。急に背中を反らせて、喘いだ。
「ぁぁ…や……もう、やだ……」
 荒い息で、そう叫ぶ。
 
「やだって……無理だよ」
 そんなそそる格好を、僕に見せつけて……
 上半身は、完全に後ろに反っていた。
 背中で拘束された両手で、僕の太腿にしがみつき、喉を反らせて喘いでいる。
 その開かれた胸には、さっき散らした紅い痕があちこちに、まだはっきりと浮き出ていた。
 そして、大きく開脚した中心には……腰を打ち付けるたび、僕の腹にも当たる、克晴の勃起したペニス。
「克晴……かわいいなあ」
 言わずにはいられない。
 僕も苦しい息の中、呟いて、そこに手を伸ばした。
 
「───アッ!!」
 
「くっ……」
 
 
 扱きだした途端、もの凄い締め付け。
 やば……イッちゃうよ……
 
「克晴……僕、イク……」
 背中が吊りそうなほど、下から打ち付けた。
 ……克晴も一緒にイカせる。前を扱きながら、胸を弄くった。
「あぁぁ……!」
 嫌がって、身体を捩った。
「やっ……ダメ……もうヤ……」
 
 あぁ……イク……イクッ!!
 
「やめっ………ああぁぁ…!」
 
 
 ドクン
 
 
 音が聞こえるかと思った。
 克晴の中に、思い切り滾りを放出した。
 克晴も、僕のお腹に白濁を飛び散らせていた。
 
 
 
 ───はぁ……めちゃ、気持ちいい……
 ……やばいよ……これ、クセになりそう──
 
 
 
 痙攣しては搾る克晴を感じながら、目眩がしそうだった。
 
 
 
 
 僕の上に座り込んだまま、項垂れて荒い息を繰り返している。
 前髪の隙間から時々見えるその顔は、目をぎゅっと瞑って、頬が真っ赤で。
 それを見てたらまた勃っちゃいそうだったから、腰から退かした。残念だけど、この体位で連続は、無理だった。背中が吊っちゃう。
 
 僕から降りた克晴は、その場で倒れ込むように横になった。
 飛び散った白濁を綺麗にすると、後ろ手のプレートを解除してあげて、克晴に寄り添って、僕も横になった。後ろから抱きしめて眠る。
 普段は自分のベッドで寝るけど、時々、一緒に寝てしまう。ヤった後は、可愛くて可愛くて……離れたくなくなっちゃうから。
 
 克晴を抱けば抱くほど、僕はその身体に溺れていく。
 ……反比例するように、憎しみが深まるのを知りながら。
 
『この、悪魔!』
 克晴が罵るとき、僕をそう呼んだ。
 ……そうかもしれない。克晴にとって、僕なんて──
 
 
 その“悪魔”に、魅入られてしまった克晴………
 可哀相な、Black Sheep。
 僕の生け贄。
 どうなっていくんだろう。
 ……どう変わっていくんだろう。
 
 
 
 でも、本当は反対なんじゃないかと、時々思う。
 克晴が、僕を虜にして止まないんじゃないか……
 
 それはまるで、アフロディーテの申し子として生まれた、かの天使のように……。
 
 
 黄金の矢で射抜かれた僕は、いつか愛しすぎて、この生を滅ぼしてしまうかも知れない。
 
 
 
 
 
「克晴、こないだのやろう」
 
 僕は、あれが忘れられなくて、また強要してしまった。
 正常位でも充分気持ち良くて、それはそれでヤッてるけど。
 なんか、興奮度が違うんだよね。
 
 
 ───あの騎乗位でやった日から、1週間。
 克晴が初めてここに来てから、もう1ヶ月以上が経っていた。
 
 誕生日過ぎて、帰ってきて。
 絶食……お仕置き……
 いろいろあったけど、克晴は、本当にいい子になった。
 
 
 
 ただ、……やっぱり僕は……克晴と会話がしたい。
 
 
 
 夕食も終わり、今日の新聞に一通り目を通して、シャワーも済ませた。克晴は相変わらず、ベッドの中から動かなかった。
 今朝、出がけに抱いたからいいかと思ってたけど……我慢できなかった。
 
「………?」
 部屋に入ってきた僕を、不安げに見上げる。
「こないだのアレ、さ。克晴、上になって」
 言った途端、目の色が不安から恐怖に変わった。真っ青な顔になって、一瞬首を振った。
 その唇は“いやだ”と、かたどった。
 
 でも、はっきり首は振らない。
 声にも出さない。
 僕が教え込んだ、“拒否は許さない”のせいで。
 
 グッと両手を握りしめて、唇だけを噛んだ。
 そんな仕草が、また愛しくて。そっと顎を捉えて、キスをした。
 
 この間の夢のような、克晴の“受け入れ”はもう無かった。
 理由なんか聞いてないから、何でなのかは分からない。ただ、僕はそれに触れるのが、何となく怖かったんだ。
 だから、放っておいた。
 
 克晴の動かない舌を舐め回して、吸い上げる。
「ん……」
 ちゃんと反応はしてくれるから、これで充分だ。
 
「言うこと聞かないと、また後ろで手首、繋ぐよ。それでもヤルからね」
 唇がまだ触れるような距離で、静かにそう言った。
「それが好きなら、それでもいいけど」
「…………」
 グッと、克晴の喉が鳴った。その頭を抱きかかえて胸に押しつけると、僕は掛布を剥ぎ取った。
 
 もう一度ディープキスを繰り返しながら、パジャマを脱がせていく。青いシルクのやつだ。やっぱりよく似合う。
 下着はまだ、与えていなかった。……そんな気分には、なれなくて。
 
 全裸にさせた克晴を、僕に跨らせた。僕はズボンと下着だけ、脱いで。
「今日は、自分で全部入れてみて」
「───!」
 僕の腰に置かれた克晴の手が、震えた。
 
「解すのは、やってあげる。でも、前戯で座り込んじゃダメだよ」
 
 


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