chapter4. blood ceremony -血の儀式-
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 5
 
「ん……ん………」
 
 拙い克晴の動き。
 苦しそうな、呻き声ばかりだ。
 
 舌を動かすのが、精一杯のようだから、腰は自分で振った。
 頭を掴んで咥えさせたまま、腰を前後させる。
 
「んっ───!」
 嫌がる悲鳴が上がるけど、僕は手を離さない。
 
「もっと、唇締め付けて。克晴の蕾みたいにさ」
 
 僕の声に、始めは反応するけれど、続けられない。すぐに、快感は薄らいでしまう。
 
「舌、サボっちゃ駄目だよ。先端は舐め続けて」
「唇搾ったまま、吸い上げて」
 
 初めて咥える子に教えるみたいに、細かく指示した。
 
 
 
 ヘタすぎる克晴の舌使い。
 ……そんな訳ないだろ。
 恵君に、やってあげてた筈なんだから。
 
 そんな嫉妬心が、なおさら僕を煽る。
 
 
 
 そんなに、したくない? 
 そんなに、僕が嫌い? 
 そう思うだけで、胸が痛くて………
 
 
 
 
「う……! ぐ…」
 吐きそうに喉を鳴らしたので、一回口から抜いてあげた。
 激しく咽せ出した。げほげほと、喉の奥から絞り出すような咳を繰り返す。
 腕が後ろに回っているから、身体を上手く支えられなくて。前のめりになって、うなじと背中を僕に見せていた。
 後ろ手にくっついた、プレートも見える。その右手首に、今は包帯もない。時々それを外しては、手当をしていた。
 プレートのおかげで、あの傷が見えないのは、僕にとっては助かることだった。
 痛々しすぎるのと……命を張った、完全拒否。
 あれを見ると、一々思い知らされる───
 
 
 
 
「克晴は、ずるいね」
 咳が止まった肩を掴んで、起こさせた。
「…………」
 辛そうに目を細めながら喘いで、必死に僕を見上げる。
「僕には、気持ちよくして貰ってるのに」
「────」
「僕を気持ちよくは、してくれないんだ」
 
 克晴の顔が、青ざめていく。顔を横に振り出す。
「──誰が……」
 咳き込みながら、声を絞り出した。
「誰が、頼んだよ!?」
 怒りで、肩まで震えている。
「されたくて、こんな事されてんじゃねぇよ!」
「………」
「誰がしたがるかよ、こんなこと!!」
 
 睨み上げてくる、その目。憎しみで真っ赤になっている。
 大好きな克晴の眼だった。
 
 ───僕だって、ほんとは…! 
 
 僕も息を呑んで、奥歯を噛み締めた。
 また思う…判ってる。
 ……特にこんなのは、慈しんでやる行為だ。
 相手を“好き”ならばこその…。
 
 こんなコトさせられて、好きになるヤツがいるか。
……僕だって、愛してくれなんて言えない。
 そんなの、判ってる。
 僕は……僕自身が、一番わかってる事なんだ。そんなの。
 
 
 ───でも、してほしかった。
 
 
 僕のビジョンは、何でも二人ならではのこと。
 だから、一人でやろうとするには、ムリがある。
 やらせようとするには、もっと無理があった。
 
 
 命令と服従……
 そこには、憎しみだけが、生まれる。
 
 
 
 
「……わかった」
 僕は、小さく呟いた。
 
「克晴、ヘタすぎ。……もうフェラはいいや」
 克晴の膝から退くと、向かい合ったまま、その横に足を投げ出して座り込んだ。
 
「────」
 
 同じ目線に揃ったその顔を、じっと見つめる。
 手が不自由だから、口も拭えないでいた。首まで伝った唾液の跡が、艶めかしく光っている。
「…………」
 その口元をぎゅっと結んで。
 克晴は、ホッとして、それでも訝しむような、複雑な目の色で僕を見返してきた。
 
 
 
「立って」
 
 
 
「………?」
「早く立って、僕に跨って」
 
 僕の命令に、戸惑って躊躇している。
 後ろ手の体勢では、立ち上がること自体、難しいと思う。
 緊張した顔で、僕を見つめてくるから、僕は容赦ない二択を突きつけた。
 
「また、口に突っ込んでもいいけど。克晴が…それが好きなら」
「────」
「それが嫌なら、早く僕に跨って……僕を受け入れて」
「………えっ!?」
 小さく、口の中で叫ぶのが聞こえた。
 
 どんどん顔が真っ白になっていく。
「…………」
 唇を引き結んで、首を横に振り始めた。
 
「早く!」
 厳しく怒鳴りつけると、身体をビクッとさせて、項垂れて──
「…………」
 覚悟したように持ち上げたその顔は、唇を噛み締めて、憎しみでいっぱいの眼だった。
 
 
 ───克晴……
 
 
 胸が、ズキンとした。
 やっぱり、こうなってしまうんだ。
 判っていた、悪循環。……それでも、僕は止められない。
 
 克晴はよろめきながら、何とか脚だけで立ち上がって、僕の腰の上に跨ってきた。
「自分で開くのは、無理だよね。それは僕がやってあげる」
 膝立ちの克晴の腰を、両側から掴むと、僕の勃っているモノの真上に来させた。
「あ……ちょ……待て…」
 バランスが取れずに、上体がよろめく。膝を詰めて、少しずつ僕の上にあがってきた。
 その後孔を、舐めた指で触った。
「ん……ぁあ!」
 そのまま、ずぷりと押し込んでいく。
「ああっ!」
 克晴の身体がしなった。
「やっ! やだ……やめろ!」
 叫んで、腰を捩る。
「うるさいな。解さないと、つらいでしょ」
 片手で腰を押さえ付けながら、2本目を入れる。
「……ぁああっ!」
 膝がガクガクして、腰が崩れ落ちそうになっている。入った指を、ぎゅうぎゅう締め付けてきた。
 
 ───すごい。ほんと、克晴のはよく締まる……
 
 
「ほら、もうオッケーだから」
 充分ほぐした後、指を抜いて腰を上げさせた。
 ほとんど僕にぺたんと座り込んで、悶えていたから。
 
「………いいよ、克晴。ゆっくり腰を落として」
 克晴の尻に両手を添えると、外側に引っ張った。
「………っ」
 屈辱に顔を歪めている。眉間に見たこともないシワが寄った。
 ──その気持ち、僕もわかる。
 …だから、さっさとやっちゃった方がいいんだ。
 僕の暴走は、絶対止まらない。克晴の腰を誘導しながら、蕾に僕の勃立してる先端を押し付けた。
「ん……」
「いいよ、そのまま」
「………くっ……」
 腰を落として、僕を咥え込んでいく。結合部がヤラシすぎる。
 上下しながら、少しずつ呑み込んでいく様子は、僕が克晴に挿れる時より、よっぽど興奮した。
 
 途中で何度も止まり、首を振る。
「中途半端は辛いよ。全部挿れて、僕に座っちゃって」
 僕の声に、潤ませた眼をチラリと向けた。
「ぅ………はぁ……」
 ゆっくり、息を吐きながら僕の熱い塊を、蕾の中に全部沈み込ませた。
 
「ふ……ぅ……」
 克晴の体重を腰に感じたとき、ぎゅっと、締め付けられた。
「んっ……きつ……」
 僕も呻いてしまった。
 
 ベッドに身体を倒し、後ろに肘を突いて身体を支えた。この方が、楽だから。
 斜めに克晴を、仰ぎ見る。
 下から眺め上げたのは初めてだった。
 
 痩せて、ますます胸から腰へと腹筋が搾られている。開脚で張り出した腰骨と、内股に浮き上がる筋が、とても綺麗だ…。
「カッコイイなあ、克晴……」
 思わず呟いた。
 真っ赤にした眼で、睨み付けてくる。
 胸を張り、大股を広げ、乳首も、ペニスも、恥ずかしい部分を隠すことができずに僕に跨り、それでも気丈にも、平気な顔を作って。
 その体内に今、僕を埋め込んでいるのかと思うと、めちゃくちゃ興奮した。
「……ッ」
 克晴の目が細まった。
 僕のが、大きくなっちゃったからだ。
 
「動いて、克晴」
「…………」
 
 一瞬、泣きそうな顔に見えた。
 一呼吸してから、恐る恐る腰を持ち上げている。
「………くっ……」
 頬を紅く染めながら、悔しそうに口を噛み締める。
 でもやっぱり、手が不自由なせいでバランスが取れない。
 前のめりになりながら、やっと上下させた。
 
 ………うはあ、気持ちいい……
 
 キツイから、ゆっくりでも充分イケそうだった。
 
 顔のすぐそばで、はあはあという息遣い。それと、僕に捧げるように、突き出された胸の飾り。そこに片手を伸ばして触れてみた。
「…アッ」
 身体が揺れて、倒れそうになる。
「やめ……まさよしっ」
 僕を睨み付けながら、悶える。それでも弄くっていると、腰を捩りだした。
「やめ……やめろって! …あぁ……っ」
「ん……」
 僕も刺激を受けて、また呻いた。痛いほど後ろを搾る。
 
 気持ちよくて、僕はまたやりすぎてしまった。
 倒していた身体を起こして、顔を胸に寄せる。硬く尖ったつぶに舌を這わせた。
 舐めて、吸い付いて、尖りを刺激する。
 
「ぁああっ! やめろ……やめろ! 雅義、お願い───!」
 
 
 
 
「頼むから………やめて………」
 
 
 
 
 ぞくりと、下腹が疼いた。
 僕の肩口で……項垂れた克晴が、掠れ声でそう言った。
 
 
 
 
「俺……動けない……」
 
 


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