chapter4. blood ceremony -血の饗宴-
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 2
 
 細められたまま、潤んだ瞳──
 もはや、どのくらい見えているのかも分からない。
 その霞んだ視界で、僕を睨み付けて……そして……
 
 克晴は、初めて首を───縦に振った。
 
「──────!!」
 
 全身から、血の気が引いた。
 軽く訊いたつもりだった。
 いくらなんでも、そんな…って。
 でも、克晴の絶対拒否は───本物だった。
 
 どこにそんな力が残っているのか。
 僕を睨む眼に、迷いはない。
 こんなにもハッキリとした“YES”を貰ったのは、多分……今までで初めてだ。
 
 心が冷えていく。
 なんで……なんで……
 僕の心も泣き出す。
 悲しみで掻きむしられるように、胸が痛い。
 
「………くっ」
 克晴が身悶えた。僕の身体が、勝手に愛撫を始めていた。
 なんで……なんで……! 
 その気持ちが、この身体に直接聞こうとしている。
 許さない……許さない───! ショックは、怒りと欲望に変わっていった。
「ぁ……はぁ……!」
 こんなに拒否されても愛しい…そのペニスにしゃぶり付く。後ろの指を出し入れする。
「ん! ………ぁ……」
 また克晴がイキそうになった。
 イカせるもんか! 僕は、放り出すように愛撫をぴたりと止めた。
「ふ………」
 克晴が、泣きだした。
 涙は流さなくても、何故か克晴が泣いているのが、いつも僕には分かった。
 
 ───どうして……
 どうして、こうなってしまうんだろう。
 泣かせたい訳じゃないのに。いつもこの繰り返しだ。
 
 でも僕の暴走する“怒り”という哀しみは、暴力を止めない。最後は、言葉で脅した。
 
「辛いだろ? “うん”て言うまで辞めないよ」
「……ご飯も…トイレも…睡眠も。みんなお預け」
 
「何回でも、これを繰り返す」
「薬はまだあるんだ。感度が落ちたら、また挿れてあげる」
 
 
「────!!」
 克晴の瞳が、驚愕の色に変わる。
「……………」
 怯えた子羊は、やっと首を縦に振った。
 僕は嬉しかった。
 どんな形にしろ、僕の言うことを聞いてくれたんだ。
 
 イきたい? という僕の問いかけに、ハイ……と、ひとつ、頷かせた。
 
 これからも言わせる。毎回お願いさせる。
 僕のlost sheepは、また一つ、いい子になった。
「気持ちよくしてあげるね」
 克晴を抱き締めながら、下の戒めを外した。
 
 一回手でイかせた後、克晴の中に入った。
「あ……ああぁ!!」
 ギャグの中でこもった喘ぎが、部屋に響く。
「──ん………」
 ───熱い……克晴……
 締め付けが凄い。食いちぎる勢いで、僕を迎え入れる。
 ───こんなになるまで、我慢して……
 愛しいのと憎らしいので、打ち付ける腰の加減が出来ない。
 二回吐精した後、克晴はまた意識を失くした。
 
 僕はその身体を、その後もずっと抱き続けた。
 もう、何回イッたか判らない。克晴の我慢は、僕の我慢でもあったんだ。
 
 
 
 
 
 
 やりすぎたと気付いたのは、次の日の朝だった。
 ベッドの中から僕を見上げる克晴が───怯えていた。
 疲れ果てたであろう身体はピクリとも動けず、掛布から出た手首のプレートだけが、震えてチャリチャリと軽い金属音を立てている。
 
「なに、克晴……震えてるの?」
 
「………っ」
 
 驚いて呟いた僕に、必死に目線だけで強がる。
 でも、噛み締めた唇や、寄せた眉は悲しげで、……今にも泣き出しそうだった。
 気の強い克晴に、そんな顔をさせてしまった。
 僕は胸がズキンと痛くなった。
 
 ────ごめん……ごめんね……
 
 口の中で繰り返す。
 やはり、その言葉も伝えられない。何度謝ったって、許されることではないから。
 
 
 でも……強情な君だって、悪いよ……
 辛い気持ちが、責任転嫁し出す。こうなると、僕は反省なんかどこかにすっ飛んでしまう。
 
 悪いと判っているのに、その身体を欲しくなる。
 可哀相だと思っても、衝動が抑えられない。
 
 熱くしなる身体。
 堪えては漏らす、色っぽい声。きつく締め上げてくる蕾…どうして、この身体を我慢できよう……壊してしまう不安に駆られながら、じっくりと調教していった。
 
 ──キスを大人しく、受け入れる。
 ──悪態を突かせない。
 ──もっと素直に、快感を享受させる……これがまた強情で、てんでダメだ。
 
 
 そして、……僕の名前を呼ばせる。
 クスリとバイブを使って、克晴を散々啼かせた。
 
 自慰の時、恵君の事ばかり呼んでいるのを聞いてしまった僕は、かなり辛く当たっちゃった。
 
「お仕置きだから、ちょっと辛いよ。でも克晴がいい子にして、僕をちゃんと呼んでくれるなら、すぐにやめてあげる」
 
 本当は、そんなことしたくない。だから、何度もチャンスを与えたのに。
 克晴を見ては、今、呼んでくれないかな……って、そう思った。
 でも克晴は、ただ僕を睨み返すだけなんだ。馬鹿克晴……!!
 
 
 無理しすぎて、本当に精神が壊れてしまう場合があるんだ。そこのぎりぎりで、クスリを使いすぎないように、気を付けた。
 
 シリンジを蕾にあてがうとき、僕は異様に興奮した。
 中身を押し込んでいくと、勃ちあがっているペニスが、ぴくんと動く。掠れる声が、一段と高くなる。
 
 ああ……、この姿を見れるなら、“お仕置き”なんて、何でも理由を付けて、何回でもしたいかも……
 
 
 
 克晴の強情のせいで、僕まで久しぶりにクスリを味わうことになってしまった。
 意識が飛んだ克晴を、起こす。
「言ったでしょ。気絶しても起こすって」
 恐怖する克晴に微笑みかけると、僕も覚悟を決めた。
 紅いベルトで、自分の熱くなった肉棒の根本を括った。ピンクローターを挿れてある蕾に、それをあてがう。
 
「ひっ! ……ああぁぁ!!」
 悲鳴と喘ぎ、その声に煽られて、僕の貫く勢いが増す。強引に全部挿れると、腰を止めた。
 
(…………ふ…)
 
 久しぶりの感覚。克晴の中に残るクスリが、僕のペニスにまとわりついてくる。そこから、痺れたように身体が熱くなっていく。
 動悸……疼き……目眩……高揚感……
 
 ここまでしてるんだ。
 結果を出すまで、絶対やめない! 絶対に名前で呼ばせるようにする!!
 
 僕は必死で、それを克晴に訴えるように穿ち続けた。
「アッ…、アッ……!」
 悶えて、首を振り続ける克晴。
 こんな辛いこと、本当に終わりにしてあげたい。
 僕も辛いんだ。
 克晴にはもっと、笑って欲しい。僕には見せない、あの笑顔がほしいよ……
 だから、今は……
 お願い…お願い、克晴───
 
 中のバイブも動かした。
「……うわあぁッ!!」
 僕もこれには、やられた。
「───くぅっ……」
 打ち込むペニスの先で、振動が僕まで揺さぶる。
 
 
「……克晴……克晴……」
 首を抱え込んで、肩口に顔を押しつけながら、克晴を呼ぶ。
 ジュブジュブ、パンパンと穿ち続ける音が、果てしなく続く。
「あッ、あッ、あッ、あッ……」
 強情克晴は、揺すられるまま、声を上げていた。
 いつまで経っても、喘ぎ声だけ───
 
 応えて……僕に、応えてよ──!!
 最後は、悲痛な叫びになってしまった。
 
「克晴……克晴……克晴…………かつはる!!」
 
 
 
 
 
「まさ……よ…し…」
 
 
 
 
 
 
 喘ぎと、荒い呼吸の中で───
 肉音と水音が、うるさく──
 
 自分の叫び声で掻き消してしまいそうな程、か細い声だった。
 でも、確かに聞こえたんだ。
 
 やっと、僕を名前で呼んでくれた。
 僕の名前を、その唇が辿ったんだ……
 
 
 嬉しくて、嬉しくて………
 
 
 僕は、泣きながら克晴を抱きしめた。
 二人の戒めを外すと、興奮した野獣のように押さえが効かなくなった。
 何度も何度も、頂点を目指す。
 克晴も、クスリのせいで快楽に貪欲になっていった。腰を振り、キスをねだり……身体を僕に捧げる。
 
 
 もう、克晴の意識があるのかも分からない……
 そんな状態のまま、僕は腰を打ち続けた。
 
 


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