chapter7. raison d'etre  -レゾンデートル-
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 4
 
「────!」
 
 拒否は……許されない……
 頭が、真っ白になった。
 
 さっきのと、どっちがマシか…なんてことが、ちらりと掠める。
 でも、そんなこと、計れるもんじゃない。
 さっきのはもう嫌だ、吐き気が込み上げる。
 でも……跨って……そんなの、出来るわけがない!
 
 
 ────やだ……いやだ…………
 
 
 拒否は、許されない。
 わかってるけど……
 俺は…無意識に首を、横に振り出していた。
 
 
 
 
「早く!」
 鋭い声で、促された。
「!!」
 俺の身体は、情けないほどビクッとして、竦み上がった。
  
 ……………。
 
 ───恐怖と焦りだけ。何も他には、浮かばない。
 ──俺は、俺を…助けられない。
 
  沸き上がる憎しみを、あらん限りの睨み付けで、悪魔にぶつけた。
 
 
 
 
「──────」
 俺は心を殺して、悪魔に跨った。
 もう、何を感じても、それは俺じゃない。
 どうショックを受けても哀しくても、俺はもう死んでしまったから、関係ない──そう、自分に言い聞かせて。
 
 
 
「……ぁッ」
 指が入ってくる。
 受け入れるには、まだ用意が出来ていない俺の身体。後ろ手の体勢に、無理がある。
「ん……ぁあ!」
 様子見もなく、ずぶずぶと入れてくる。体が勝手に嫌がって、揺れた。
 ───ん……クッ…
 開いた脚の間で、突っ込まれたオッサンの指が蠢く。
 ぞくぞくと、内壁に疼きが走った。
「ああ……ああぁ!」
 腰を振って、喉を反らせた。遠慮無しに、二本に増やしてくる。
 ……ぁ……ぁあッ
「やっ! やだ……やめろ!」
 膝立ちの上半身を支えていられなくて、オッサンの上に座り込んでしまった。
 それでも、蠢き続ける指。俺は俺で、そこを激しく搾ってしまう。
 それが嫌で……首を振って、快感を散らした。
 
 指で、こんなじゃ…それを想像すると、ゾッとした。
 
 
 
 
「いいよ、ゆっくり」
 オッサンが俺の尻を割って、誘導する。開かれる感触に、また打ちのめされる。
 ───悔しい…
 恥ずかしすぎるこの体勢は、屈辱以外の何者でもない。
 先端を後ろにあてがわれて、腰を落とし始めた。
 
 ────うぁ…!
 
「……くっ…」
 押し広げられる、快感。
 挿入してくる異物。熱く固いそれが、俺を貫く───
 
 怖くなって、途中で止めた。
 全部挿れて座り込めと、悪魔が言う。したくないけど、重力が勝手にそうさせた。
 いつまでも中腰は無理で、ベッドに突いた膝が、震える。
「ぅ………はぁ……」
 体内の奥底まで、オッサンの勃起が届いた。
 今までと違う感覚……真っ直ぐな杭に貫かれて、地面に固定されたようだった。
 腸壁がそれに吸い付く。
「んっ……きつ……」
 オッサンも呻いた。
 
 
「かっこいいなあ、克晴は」
 呑気な声で、下から見上げてくる。その声にまた、腹が立つ。
 ……コイツを悦ばせは、しない。
 
「─────」
 
 俺は平静を装って、睨み付けた。
 こんなことで、俺は負けない。貫かれたまま、何もされてないような冷静な顔をして。
 
 本当は……熱い。声が漏れそうなほど、快感が突き上げている。
 ───んっ…! 
 中で、悪魔が大きくなった。動かれたらアウトだ…。
 
 
 
 
 でもそんな虚勢、すぐに剥がされた。動けと言う。上下に腰を動かせと…。
 危ういバランスで、なんとか腰を上げて…下ろした。
 
 ───うああっ…!
 
 擦れる感覚が半端じゃない。じんじんと疼き上げる。……体が…支えられない。
 揺れる半身に、悪魔の手が伸びてきた。
 
「アッ」
 
 胸に鋭い刺激。ダイレクトに腰に響いた。
「やめ……まさよしっ」
 叫んだけど、やめてくれない。舐めて、唇で吸い付いてきた。
「やめ……やめろって!」
 激しい快感が胸から脇腹へ、電流のように走り抜ける。痺れが、腰を震えさせて……
 完全に勃ち上がってしまった先端から、透明な液体が伝い出す。
  
 ───あぁ……っ
 
 倒れる……
 我慢できないこの疼きを、どうしたらいいのか……
 
 尖りをしつこく吸っては舐める。ビクビクと胸筋が震える。それを揉んでは、また吸い付く。
 
「ぁあっ…やめ……やめろ!」
 押し返せない、避けることもできない、胸の疼きに身体は揺れて、それを下からの肉棒が支える。
 これで上下しろったって…力が…あ、あ、…ダメだ──
「雅義、お願い───!」
 
 身体を捩って、頭を振って、それでも突き上げてくる快感に…
 
「頼むから………やめて」 
 俺はとうとう、弱音を吐いた。
 
 
 
「………俺、動けない……」
 
 
 
 喘ぎながら、そう言葉を漏らした。
 憎たらしい肩に額を押し付けて。……快感で、舌も上手く回らない。
 
 
 
 
 
 ───この俺が……“弱音“を、吐いた───
 かつて一度も、どんな時だって……そんなこと、あり得なかったのに───
 
 
 
 
 もう、動けという方が、無理だった。そして動けないことで、“お仕置き”だとか…言い出されたら。
 ……俺は、おかしくなってしまうだろう。その恐怖が、心を挫けさせた。
 この悪魔の数々の“調教”は、とことん俺の骨の髄まで、染み渡っていた。
 
 
 
 
「……わかった。僕が動くから」
 悪魔が、下から突き上げ出す。
 目一杯開いてしまっている、俺の脚。これ以上ないというくらい、奥底まで挿入してきた。熱い肉棒が、腸壁の奧を突く。
「あっ……!」
 また恐怖を覚える。前と後ろが、同時に疼いた。
「──ぅぁ……ぁああ!」
 どこまで俺は、感じてしまうんだ?
 
「……ぁああ、ぁああ! ……ヤ…嫌だッ」
 自分で動く比じゃない…奥が…腹が……やっぱり、嫌だ、こんなの!!
「やめろって……! 雅義──!!」
 叫んで悶えた。
 
ぐちゅぐちゅと、厭らしい音は止まらない。
「──く……ん…」
 耐えきれずに、倒れ込んだ肩を支えられた。ハッハッと、激しい息遣いだけが答えのように、耳の横で響く。
 
……ぁあ、……あああ……!
 突き上げ続ける快感。
 揺さぶられて熱い腰、体内を駆け巡る疼きが……悲鳴を上げさせる。
 よがり、という悲鳴。
 
 
 結局俺は、ありったけの快感を引き出され、啼かされた。
 背中を反らして、後ろ手で体を支えて。露を垂らしながら、オッサンの腹に、自身を叩き付けて。
 恥ずかしい…悔しい! 揺さぶられながら、頭の中では繰り返すのに───
「克晴……かわいいなあ」
 悪魔の怒張が腹の中で膨らんだ。
 呻いた俺にそう言いながら、前を握ってくる。晒している胸もまた、摘んできた。
 ツキンと痛みのような痺れが、腰に……
 
「やっ…ダメ……もうヤ…」
「克晴……僕、イク……」
 
 激しく扱かれて、絶頂を目指す。
 
「あぁ…克晴……イク……イクッ!!」
「ああぁぁ────っ!」
 
 熱い迸りが、体内で弾ける。ドクンドクンと、脈動と共に何度も注がれた。
 
 それを締め付けながら、俺も、オッサンの腹へ飛び散らせていた。
 
 
 
「─────」
 膝も腰も限界だった俺は、やっと拘束を解かれて、その場で横に倒れ込んだ。
 
 ───終わった……
 
 そのまま、泥のように眠ってしまった。
 
 
 
 
 何もかも、無かったことにして……
 
 
 
 
 
 こんなことこそ、夢なんだと、
 この世界から逃げるように───
 
 


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