chapter7. raison d'etre  -レゾンデートル-
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 6
 
「…………」
 目が覚め出すのと同時に、身体の感覚もかえってくる。
 ………あッ
 
 昨日挿れられた物が、まだ入ったままだった。
 小さな異物。
 そこから伸びたコード。俺は昨日も、途中で意識を無くしていた。
 
 震えた俺の身体に、オッサンが反応した。
「……起きた? …克晴」
 
「あっ……んぁ!」
 いきなり、電源が入った。
 
「やめ……やめろ」
 
 身体をくの字に曲げて、感覚から逃げようとした。体内から振動音が聞こえてくるのが、気持ち悪い。
 
「はは……夜ね、ときどきスイッチ入れてたんだ」
 背後から、下っ腹に手を伸ばしてきて、押さえられた。
「────!!」
 信じられない。
 ────コイツッ!
 
 変な夢を、次から次へと見た。
 特に子供の頃の、身体を弄られているあの感覚……
 
 コイツのせいか!
  
「くぅ……」
 腹の上から押されると、ローターの振動が強くなる。曲げた膝にもう一方の手が割って入り、蕾に触れた。
「あっ」
 指が中に、入ってくる。
 
 ………嫌だ! 昨日、あんなにっ────もう、いいだろ…!!
 
 底なしの悪魔は、俺の反応を楽しみ、弄り続け、最後は俺の中で果てた。
 
 
 
 
 
 その後は心で泣き続けて、一日中寝込んだ。
 心に流れる、赤い涙……それを止められなくて……
 
 
 俺…なんで、生きてんだろう……
 何にしがみついていいのか、最早わからない。
 身体を横たえて、腕一本動かせないほど、怠い。
 
 オッサンは…あの悪魔は、あまりに酷い───
 
 あれ以来……
 口でしろと突っ込まれ、上になれと跨がされて以来……
 俺は単なる玩具でしか、なくなっていた。その扱いは、そこら辺の人形で遊ぶのと同じ。
 
 今朝見た夢で、思い出したことがあった。
 俺は知りたかった。
 
 なんで、俺なのか。
 
 今もそうだ。
 この仕打ちは、狂気にも似ている……なんで、こんなことされ続けなきゃ、いけない? 何が楽しいんだよ…
 
 6年前、アイツが消えた時、思った。
 俺じゃなくてもよかったのか。
 父さんの気を引くためなら──誰でもよかったんだ。それが、たまたま俺だった……
 
 ──だったら、なんで俺に帰ってきたんだ。もう、いいじゃないか!
 
 堂々巡りに繰り返す。怒りが込み上げる……
 
 なんだって、俺はこんなところで啼いていなきゃ、ならないんだ。
 俺の心は、どこへ行けばいいんだ……。諦めることも、納得することも……できない。
 
 俺の生きている意味は、どこにあるんだ?
 
 このままでは、確実におかしくなる。
 身体と心が、音を立てて───ベリベリと剥がれてしまう。
 
 
 
 
 
 
「克晴、こないだのやろう」
 
 朝、あんなふうに弄んだあと、しっかり掘ったくせに。まだ何かしようとする。
 
 一日中考え込んでいた俺は、オッサンに対する構えをちょと怠っていた。
 部屋に入ってきた奴を、見上げた。
 
 ………何、するってんだ?
 
 いろいろやられすぎて、何のことを言っているのか、瞬時に判断がつかない。
 
 
「こないだのアレ、さ。克晴、上になって」
 
 こともなげに、悪魔は言いやがった。
 
 
 
 
 恐怖が俺を襲った。
 心と身体が、それぞれに反応した。
 
 ───嫌だ! 叫びそうになった。
 それを押しとどめる喉。振れない首。
 
 あんまりにも無理があって、掛布を握りしめて意識を保った。
 真っ青になったと思う、俺の顔……それでも、睨み付けた。
 
 その顎を掬われて、奴の顔が近づいてくる。
 ………来る。
 俺は覚悟を決めて、目を閉じる。唇を開いて、奴を受け入れる。
 
「………ん」
 生温かい舌が、咥内を這い回って……吸い上げられる。
 クルシイ………
 
 
 ───あっ…?
 
 いきなりオッサンが、俺の頭を胸に抱え込んだ。
 それは、夢でも思い出していた感覚。
 
 でも、一瞬だった。
 何かを思い出しそうだったのに。布団を剥がれ、パジャマを脱がされた。
 
 
 
「座り込んじゃ、ダメだよ」
 二度目の騎乗位……股間を晒して、ヤツに跨って。その命令を、俺は必死に守った。
 
「んぁ……ふ……ァアッ!」
 漏れてしまう喘ぎを、両手で押さえながら、腰を震えさせた。
 膝立ちで開かされた尻に、容赦なく、何本もの指が出入りする。グッと押し込んできて、中でかき混ぜる。
 
「ぁああっ……」
 
 前回の快楽の恐怖が蘇る。
 もうダメ……そう、口をついて出た言葉。アレを言うほど、また乱されるのか。
 ──嫌だ………
 
「ヤ…もう、やだ……」
 
 許されるはずのない……それは、俺の…ありったけの祈り───
 
 
 これだけは───本当に、嫌だ……許して……
 
 
 
 そんな声が届くはずもなく、俺は自分で奴を受け入れた。
 
 何が、そんなに哀しいのか。
 この時だけは、違う痛みが胸を襲うんだ。──あのトゲが、刺さってくる。
 
 
 
 ───あッ……凄い…!
 
 圧迫感、異物感が今までと違う。
 入りきった後が、地獄だった。あまりにキツくて、動けない……。
 
「雅義……無理…むり……」
 
 腰にしがみついて、喘いだ。下から突き上げ出す、悪魔の腰。
 ………うぁああ!
 理性が、吹っ飛ぶ。抉られて突き上げる快感に、身を任せそうになる。
 
 辛うじて俺を繋ぎ止めるのが、あの心の痛み。
 
 俺はいつも、恵と引き剥がされたことを悲しんできた。
 恵を想って、泣いていた。
 
 でも、あの痛みは何か違うんだ。
 “自分で秘密を隠せ”、“お前が、やれ“
 そう言って、突き放された。
 
 ───突き放された。
 
 それが、痛いのか……
 
「ぁあっ…、ぁあッ……」
 嬌声を上げさせられながら。
 快感と屈辱で、めちゃくちゃな頭の中で、俺は何かを見付けた。
 
 
 
 
 
 
 
「なんで……なんで、泣いてるの? ……克晴」
 
 オッサンの声……。
 
 俺はコイツに屈しない。
 俺は、許さない。
 俺は、泣かない。
 俺は……俺は………
 
 
 ───じゃあ、オッサンは?
 俺を突き放した、オッサンは? 
 突き放したくせに……俺に何の価値があるってんだ。
 
 
 俺は、俺がどう思っているか……じゃ、なく。
 
 オッサンが俺を、どう思っているのか──それを、知りたかったんだ。
 
 
 オッサンにとっての、俺の存在……それは、なんなんだよ…
 
 放り出された。
 そう思った俺は、何であんなに憎んだんだ───
 
 


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