chapter13. Falling Angel -フォーリン・エンジェル-
1.2.3.4.5.6.7.
 
 4
 
 黄───赤───紫───
 
 明滅する。
 鼓動に合わせて、世界が変わる……ああ……熱い……
 
 
「……ん…」
 息が熱い……血が熱い……内側から、マグマが噴火する。
 赤紫だ。
 フラッシュする、一番気持ちいい色……それだけをくれ。
 
「もっと……」
 込み上げてくる衝動と快感。……欲しい……欲しい……欲しい……!
 刺激をやめるな、赤が陰る……愛撫が止まると、痛いんだ……苦しいんだ……欲求が激しすぎて――
 
 
 
 
 
「はぁ……もっと…もっとだ……」
「──気持ちイイのか?」
「……いい。……だから…もっと」
 
 痺れるような悦楽に、骨の髄まで浸りきる。皮膚に…胸に……何か触る。吸い付いてくる。ああ…堪らない……気持ちいい───!
 
「ぁああッ……もっと…強く…!」
 
「…どこがいいんだ?」
「……ぜんぶ」
 
「ここは…?」
「……あっ」
 
 体内に異物感と快感。何か入ってきた。掻き回されて、激しく世界の色が変わっていく。
「すげぇな…こっち、ビショビショだぜ」
「…んっ」
 腰に強い刺激。内側からのポイント攻撃と、連動する。
「あ、あ、ああ……あぁっ!」
 乱暴に扱かれた。その度、快感が襲う。赤、紫、赤、紫、世界が激しく点滅───
 
「いいぜ…カツハル…すげぇ綺麗だ」
「…………」
 
 見下ろすように、遠くから声。一瞬、手も止まった。
 痛い…激痛と入れ替わる……愛撫をやめるな。ずっと…快感で覆っていて……
 
 口を塞がれた。熱く蠢く物が舌に絡む。
「ん……ん……ん」
 黄、赤、黄、赤……明滅が不愉快だ。快感の中に、不協和音……クチより下だ。
「こっち……こっち、もっと…」
 腰を振った。それだけで、気持ちいい。でも刺激が足りない。体内を揺さぶる、何かを待ってる。
 欲しい…苦しい……爆発したがってるそれを、解放してくれ…!
「はぁッ……早く……」
 足を広げて、催促した。
 興奮した荒い息が、顔にかかった。
「おう……挿れてやる」
 指を抜かれて、代わりに熱いモノあてがわれた。それだけで、疼く。
「ん…」
 先端がそこを押し開く。太い棒が入ってくる。
「あッ……あああッ!」
 
 凄い…凄い…凄い… ───熱い! コレを待ってたんだ、俺の身体────
 
 最奥まで貫かれて、全身が痙攣を起こした。
 激しいスパークとフラッシュ! 火花がバチバチと肌の上で爆ぜる。
 背中を貫く快感…ゾクゾクと全身の毛細血管を駆け巡ってゆく。
 
 ……充足感……嬉しい…気持ちいい……コレだ…コレだ…コレだ!
 
 足も手も指も、悶えて震えて悦ぶ。
「はぁ…あああ……ああああ……」
 よすぎて、声にならない。
 それが、動き出した。
「カツハル…カツハル……」
 熱い息と、囁き。
 俺は仰け反って、酸素を欲した。その方が気持ちいい。
「ああ、ああ、ああぁ……!」
 揺さぶられて、体内を肉棒が引っ掻く。
 腰骨まで打ち砕かれる衝撃。パンパンと響く音すら、耳から快感に変わる。
「イイぜ、カツハル……すげぇイイ…」
「ああ、ああ、あああ…」
 赤と紫のフラッシュ───際限のない快感が、絶頂を目指した。
「…イイ…イイ…ああッ…いく…いくッ!」
 閃光が走って、マグマが噴火した。───至福の解放の瞬間。
 
「アアァ……ッ!!」
 
叫びながらビクン、ビクン、と痙攣し続けた。
「ウッ……スゲ…締まる」
 体内に熱い何かが、広がった。腸壁に当たる…熱い…熱い……異物の脈動にさえ、震える。打ち付けていた腰が、スローになっていく。
「…や……もっと…そのまま」
 俺の衝動は治まらない。内側から、込み上げ続けるんだ。
 
“欲しい…欲しい…欲しい……、イキタイ…イキタイ…イキタイ───!” 心も頭も体も、それしかない。
 
「…カツハル」
 ハァ…という熱い息。胸に、首に、口に…
「ん…んっ…」
 またキス…熱い熱い、どろんとした快感……鮮彩色だった世界が、黄色…緑と、濁ってゆく。
 
「たり…ない」
 俺はクチを嫌がって、異物が入ったままの腰を動かした。
「……こっち」
 
「ヒャハハ…そんなに、イイか?」
 興奮を抑えきれない声が、すぐそこで笑う。
「イイ…」
 俺も熱い息を吐いた。従うことにすら、快感が走る。
「そんなに、コレがイイか?」
 抜き差しを、少し激しくされた。
「ん…イイ……」
 悦ぶ。奥がすぐに震える。……堪らない。……イイ…。
 
「そんなに、オレが好きか?」
「…………」
 黒……明滅していた、黄、赤、紫…そこに…影が混じり込んだ。─────不快
「ほら、言えよ…そんなにオレが好きなのか?」
「…………」
 腰がゆっくりと、探るような動きに変わった。熱を確かめるように…俺の反応を楽しむように───
「ん……んッ……」
 
 交互に襲う、快感と不快感。黒と青と灰…混沌としていく。
 ───不安?
 
 体が疼きすぎて痛み出した。絶頂を目指す。刺激を欲しがる。欲しい…ねだればくれる……それだけは、わかるんだ。
「おねが…い」
 
「違うだろ、好きかって聞いてんだよッ」
 苛ついた声が怒鳴った。
 熱く腫れ上がったようにジンジンしている前を、また握られた。
「んあッ…」
「オラ、ここもこんな欲しがって…中もスゲェ締め付けてんぜ」
「んッ……ん…」
「言えよ、オレを好きだって! いいんだろ、コレがッ!」
 乱暴に扱かれて、激しく突かれた。開いた足が、揺れる。
「あああ…ああ!」
 それさえ、気持ちいい。
 ───でも…
「言え! オレが好きだろ? 愛してるって言えよッ」
  
 黒! 黄! 黒! 黄! 激しい点滅───これは……
 
 
 
 
 ──────拒否だ
 
 
 
 
「……アッ」
 
 意識が戻った。
 顔を真っ赤にした男が、俺に跨っている。
「─────」
 眩しい…光が乱反射してるみたいにキラキラ…星が目の前で、そこら中に瞬いているようだ。
「ああッ……や…!」
 激しい衝撃と快感が、俺を突き上げた。体内の異物が一際大きくなって、出入りする。
「アァ……ぅああああ───!!」
「カツハル……言え。オレが好きだろ?」
 顔を寄せて、聞いてくる。
 
 ───何……?
 
 何が……
「ん、ァアアッ……やだ…嫌だ……」
 状況が判らなくて、ただただ湧き上がる快感に、声を抑えられなくて、喘いだ。
 ………そうだ。打たれたんだ、俺も…アレを───
 部屋の中央に一つだけのベッド。そこで押さえつけられて。服を剥がれて…
 
「アッ……ぁあ、…ああッ!」
 思考はすぐ中断した。
 それどころじゃない……犯られてる!
 チェイスに犯されてんのに、快感に悶えて嬌声を上げている自分がいた。
「あッ、あッ、ああぁッ…」
 欲しい…欲しい…欲しい…! 身体の奥から疼く叫びが、ピストンの動きに不満を感じて、悶える。
 もっと……もっと……、もっと、もっと!! 口をついて出そうになる言葉を、必死で堪えた。
「…チェイ…やめ…」
「……そうだ、オレを呼べよ、カツハル」
 眼を見開いて、眉を吊り上げて、汗を垂らしている。
 頬を上気させた顔は、興奮と怒りと狂喜を浮かべて……
 
 
「オレを、好きと言え。言わないと、してやんねぇぞ」
「──────」
 
 
 腰がぴたりと止まった。
「……アッ…!」
 途端に、そこから疼きだす。
 何日もして無くて、欲求不満の身体のように。中も外も…血が滾る。脳が煮えそうだ………!
「や…」
 やめるな…と、言いそうになって、唇を噛んだ。
「……はぁ…」
 横を向いて目を瞑った。シーツを腰の横で、握りしめて。
 腕は、チェイスにしがみつきかねない。拘束なんてされていなくても、抵抗など出来なかった。
 
「色っぽいな…オマエ」
 嬉しそうに、溜息混じりの声。
「さあ、言えよ。そうしたらもっと、激しくしてやるぜ」
 
 動かない腰。
 動かない異物。
 動け…
 動いて…
 
 頭も体もそのことだけを、望む。刺激を…快感を…でないと辛い…苦しいんだ。
 どっぷり薬漬けの身体だった。
 
 ───こんな苦痛に、抗えない…欲しい…欲しい、…欲しい! 欲しいよ……!
 ……して…して……刺激をくれ…!
 感じていないと、痛いんだ…痒いんだッ……いやだよ、止めて…とめて───
 
 痛みと快感の渦に、感情は巻きこまれて……視界はすぐに明滅するカラーの世界へと変わる。
 
 黄色、緑、灰色、不満…不満……時々、赤──気持ちイイ。
 じくじくと、血管の中を虫が這い回るような悪寒.…体中に蠢く。
 骨と骨の隙間が、ギリギリと鳴り出す。
 俺は知ってる、腹の中のが動けば、すぐにこれが快感に変わる。
 熱い塊に叫ぶ、動け…動け…!
 
「……く…ぅん…」
 ねだるような甘い声…恥ずかしいそれで、意識がまた戻った。
 自分じゃない感情が、俺を動かす。
 抗う俺がそれを止める。
 シーツを握りしめながら、夢中で腸壁を絞っている俺がいた。
 ……ハァ…ハァ……眩しい。
 ぼやけた視界の中に、チェイスを捉えた。
 潤んで赤くなってるだろう…その眼で、チェイスを見つめた。
 快感を欲しすぎて、それを与えてくれるこの男を、愛しいとさえ思いそうになる。
 
「………はぁ…」
 口を開きかけた。…何を言うって…?
 
 …ほしい…
 唇はそう、かたどったはずだ。
 
 
「好きと言えって、言ってんだッ!」
 
 
「──────」
 再度怒鳴りつけられた言葉に、やっと心が反応した。
 
 
 
 ───好き?
 
 
 
「……………ッ」
 ハッとして、俺はまた唇を噛んで横を向いた。
「チッ」
 悔しそうな舌打ち。
「絶対に言わせてやる…」
 俺に突っ込んだまま座り込んで、胸を触ってきた。
「アッ…」
 ゾクリ。繋がったそこへ、鋭い快感が走る。反射的に動いた腕を、掴まれた。
「…そうだ、鍵だ」
 思い出したように、プレートを引き上げられた。
「この鍵を手に入れて、マサヨシをぶっ殺してやる」
 ……鍵……? …嫌だ…
「そしたら、本当にオレのモンだぜ…オマエ…」
「や…」
 浮いたり沈んだり。重力などない感覚の中で、ズシリと重みを感じた。
 逃げろ…ヤバイ…
 本能が出した危険信号に、俺は無意識にも視線を巡らせた。
 そして、左側の白い姿に気付いた。
 
 ───え……グラディス……!
 
 薬を打つ時は、ギャラリーがたくさんいたはずだ。
 今は誰も居ないと思っていた。…静かすぎて。
 壁際でイスに深く腰掛け、長い足を組んでいる。膝に両手を置いて、無感情に冷たい眼が俺を見ていた。
 ……眩しい。
 白とプラチナが乱反射して、いっそうまばゆく輝いて見える…銀色の…天上人。
 
 
 何…こんなとこ……見てんだ───悪趣味にも程がある。
 回らないアタマでも、それだけは思った。
 
 
「邪魔者は全部、始末してやる…なあ、兄さん」
 俺を弄りながら、楽しそうな声を出す弟。
「…そうだな」
 無表情のまま、切れ上がった銀の眼は、俺から動かない。
「コイツに言うこと聞かせたら…積み荷を持って、兄さんの船でトンズラだぜ」
「んッ」
 また腰を突いてくる。開脚してる足を、更に広げて……
 
「わかった。…連絡しておこう」
 
 俺を見ながら、綺麗な薄い唇がそう言った。
 
 ─── くそッ
 こんな兄弟に、いいようにされて………!
「んんッ、…ぁああ…ッ」 
 気持ちとは裏腹に、声が漏れた。
 堪らない…悦ぶ身体。
 中の異物が動くたび、擦られる。痺れる。……もっと…もっと…
 
「……イイ声で鳴く…その掠れた声…本当に色っぽいぜ、カツハル」
 ゆっくり、ゆっくり、また腰が動き出す。
 
 
「そろそろ、仕上げだぜ」
 
 
 ────うあ…
 


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