chapter7. raison d'etre -レゾンデートル-
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「…………」
目が覚め出すのと同時に、身体の感覚もかえってくる。
………あッ
昨日挿れられた物が、まだ入ったままだった。
小さな異物。
そこから伸びたコード。俺は昨日も、途中で意識を無くしていた。
震えた俺の身体に、オッサンが反応した。
「……起きた? …克晴」
「あっ……んぁ!」
いきなり、電源が入った。
「やめ……やめろ」
身体をくの字に曲げて、感覚から逃げようとした。体内から振動音が聞こえてくるのが、気持ち悪い。
「はは……夜ね、ときどきスイッチ入れてたんだ」
背後から、下っ腹に手を伸ばしてきて、押さえられた。
「────!!」
信じられない。
────コイツッ!
変な夢を、次から次へと見た。
特に子供の頃の、身体を弄られているあの感覚……
コイツのせいか!
「くぅ……」
腹の上から押されると、ローターの振動が強くなる。曲げた膝にもう一方の手が割って入り、蕾に触れた。
「あっ」
指が中に、入ってくる。
………嫌だ! 昨日、あんなにっ────もう、いいだろ…!!
底なしの悪魔は、俺の反応を楽しみ、弄り続け、最後は俺の中で果てた。
その後は心で泣き続けて、一日中寝込んだ。
心に流れる、赤い涙……それを止められなくて……
俺…なんで、生きてんだろう……
何にしがみついていいのか、最早わからない。
身体を横たえて、腕一本動かせないほど、怠い。
オッサンは…あの悪魔は、あまりに酷い───
あれ以来……
口でしろと突っ込まれ、上になれと跨がされて以来……
俺は単なる玩具でしか、なくなっていた。その扱いは、そこら辺の人形で遊ぶのと同じ。
今朝見た夢で、思い出したことがあった。
俺は知りたかった。
なんで、俺なのか。
今もそうだ。
この仕打ちは、狂気にも似ている……なんで、こんなことされ続けなきゃ、いけない? 何が楽しいんだよ…
6年前、アイツが消えた時、思った。
俺じゃなくてもよかったのか。
父さんの気を引くためなら──誰でもよかったんだ。それが、たまたま俺だった……
──だったら、なんで俺に帰ってきたんだ。もう、いいじゃないか!
堂々巡りに繰り返す。怒りが込み上げる……
なんだって、俺はこんなところで啼いていなきゃ、ならないんだ。
俺の心は、どこへ行けばいいんだ……。諦めることも、納得することも……できない。
俺の生きている意味は、どこにあるんだ?
このままでは、確実におかしくなる。
身体と心が、音を立てて───ベリベリと剥がれてしまう。
「克晴、こないだのやろう」
朝、あんなふうに弄んだあと、しっかり掘ったくせに。まだ何かしようとする。
一日中考え込んでいた俺は、オッサンに対する構えをちょと怠っていた。
部屋に入ってきた奴を、見上げた。
………何、するってんだ?
いろいろやられすぎて、何のことを言っているのか、瞬時に判断がつかない。
「こないだのアレ、さ。克晴、上になって」
こともなげに、悪魔は言いやがった。
恐怖が俺を襲った。
心と身体が、それぞれに反応した。
───嫌だ! 叫びそうになった。
それを押しとどめる喉。振れない首。
あんまりにも無理があって、掛布を握りしめて意識を保った。
真っ青になったと思う、俺の顔……それでも、睨み付けた。
その顎を掬われて、奴の顔が近づいてくる。
………来る。
俺は覚悟を決めて、目を閉じる。唇を開いて、奴を受け入れる。
「………ん」
生温かい舌が、咥内を這い回って……吸い上げられる。
クルシイ………
───あっ…?
いきなりオッサンが、俺の頭を胸に抱え込んだ。
それは、夢でも思い出していた感覚。
でも、一瞬だった。
何かを思い出しそうだったのに。布団を剥がれ、パジャマを脱がされた。
「座り込んじゃ、ダメだよ」
二度目の騎乗位……股間を晒して、ヤツに跨って。その命令を、俺は必死に守った。
「んぁ……ふ……ァアッ!」
漏れてしまう喘ぎを、両手で押さえながら、腰を震えさせた。
膝立ちで開かされた尻に、容赦なく、何本もの指が出入りする。グッと押し込んできて、中でかき混ぜる。
「ぁああっ……」
前回の快楽の恐怖が蘇る。
もうダメ……そう、口をついて出た言葉。アレを言うほど、また乱されるのか。
──嫌だ………
「ヤ…もう、やだ……」
許されるはずのない……それは、俺の…ありったけの祈り───
これだけは───本当に、嫌だ……許して……
そんな声が届くはずもなく、俺は自分で奴を受け入れた。
何が、そんなに哀しいのか。
この時だけは、違う痛みが胸を襲うんだ。──あのトゲが、刺さってくる。
───あッ……凄い…!
圧迫感、異物感が今までと違う。
入りきった後が、地獄だった。あまりにキツくて、動けない……。
「雅義……無理…むり……」
腰にしがみついて、喘いだ。下から突き上げ出す、悪魔の腰。
………うぁああ!
理性が、吹っ飛ぶ。抉られて突き上げる快感に、身を任せそうになる。
辛うじて俺を繋ぎ止めるのが、あの心の痛み。
俺はいつも、恵と引き剥がされたことを悲しんできた。
恵を想って、泣いていた。
でも、あの痛みは何か違うんだ。
“自分で秘密を隠せ”、“お前が、やれ“
そう言って、突き放された。
───突き放された。
それが、痛いのか……
「ぁあっ…、ぁあッ……」
嬌声を上げさせられながら。
快感と屈辱で、めちゃくちゃな頭の中で、俺は何かを見付けた。
「なんで……なんで、泣いてるの? ……克晴」
オッサンの声……。
俺はコイツに屈しない。
俺は、許さない。
俺は、泣かない。
俺は……俺は………
───じゃあ、オッサンは?
俺を突き放した、オッサンは?
突き放したくせに……俺に何の価値があるってんだ。
俺は、俺がどう思っているか……じゃ、なく。
オッサンが俺を、どう思っているのか──それを、知りたかったんだ。
オッサンにとっての、俺の存在……それは、なんなんだよ…
放り出された。
そう思った俺は、何であんなに憎んだんだ───