chapter10. time and time again 穿たれる楔-調 教-
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 1
 
 夢を見た。
 また、あの頃の夢だ───
 
 
「克晴。そこに俯せて、横になって」
 オッサンが言う。
 ホテルで全裸にされた俺は、言われるがまま、俯せになった。
 いつもこんな風に、大人しく従っている訳じゃない。仰向けになって、股間を晒す方がイヤだっただけだ。
 そして、呼吸を確保するよう、枕を胸に抱えさせられた。
「足は閉じたままでいいよ」
 言いながら、俺の足元に屈み込むと、両手で尻を揉み出した。
「……!!」
 俺はびっくりして、半分身体を起こした。なにしてんだ……!
「やわらかい」
 俺と眼を合わせると、嬉しそうに笑っている。
「いいから、克晴は寝てて。気持ちよくしてあげる」
 そう言って背中を押された。
「あ……」
 急に揉んでいた尻が、両側に開かれた。オッサンが割れ目の間に顔を突っ込んで、舌を這わせてくる。
 足を開いていないから、後ろも閉じたままなのに……。無理矢理、穴をまさぐる。
「んんっ……」
 俺は腰を動かして嫌がった。
 気持ち悪い異物感。尻の間でぬめぬめと動き回る。オッサンの熱い息も嫌だった。
「………んっ」
 やっと顔を退かしたかと思ったら、入れ替わりに指が入ってきた。更に強い異物感。尻の肉の間を割って進んでくる。
「……くぅ」
 蕾の盛り上がりまで内側に押し込むようにねじ込んでくる。背中がぞわぞわした。
「後ろから挿れるとね、こんな感じ」
 オッサンは言いながら、俺の中の一部を擦り上げた。
「あッ」
 声より先に、腰が跳ねた。
「はは。気持ちいいでしょ。いつも前から指、挿れてるから。たまにはねーと、思ってさ」
 聞きたくない。オッサンの言葉。……俺を更に惨めにする。
 気持ちいいはず、とか感じてる、とか決め付けられるのが、凄く嫌だった。
 枕にしがみつきながら、声を殺した。
 いつもは広げてるから、直接穴だけに刺激がある。
 ……今日のは、尻の柔らかいとこまで擦るから、よけい辛かった。
 それに、いつもと違うところを指が擦る。身体が、熱くなる。足が勝手に開こうとしてしまう。
 それをオッサンに気付かれたら笑われる。……そう思うと絶対イヤで、必死に足を閉じた。
 でもそれは、却って自分を苦しめることになった。
 膝を揃えて足を伸ばしていると、後ろへの刺激を散らすことができない。突き上げてくる衝撃に、枕にしがみついた腕だけで耐えた。
「ね、いつもみたいに、きゅっとしてみて」
「…………」
「後ろ、締めて」
 出し入れする指に、力を込められた。
「んんっ………」
 そんなこと言われたって、……できるもんか。
 意識してやったことなんか無い。俺は無視した。
 ローションのせいで、くちゅくちゅと嫌な音が聞こえる。
「……あぁっ、……んくっ…!」
 いきなり、圧迫感が増えた。指を二本に増やしやがった。
「痛っ……」
 枕に顔を押し付けて、感覚を散らした。
 出し入れのせいで、身体が揺すられる。
 いつもなら……車の中なら、背中に支えがある。
 身体を固定できれば、なんとか我慢できるのに……。ついそんなことを思って、打ち消した。
 ──そんなことない! 
 車の中では、抱えられている事が苦痛だった。
 オッサンの上に、足を開いて座る。それ自体が、どうしようもなく俺を打ちのめす。
 羞恥と悔しさが、俺から言葉を奪う。
 
 ───でも、こんな格好も、イヤだ……。
 空気に晒された背中が寒くて、何か心許ない。変な不安感が、心にもやもやとしていた。
 触れているのが、指だけ。局部だけ。こんな状態が、また羞恥を煽る。
「ぁっ……、うぅ……」
 突き上げられて動く身体に合わせて、息が乱れる。
 ……はぁ………はぁ……
 聞きたくない。こんなうるさい呼吸。
「気持ちいいでしょ? 前から挿れるのと、どっちがいい?」
 なんて、楽しそうに言う。俺はまた無視した。
 早く飽きろよ! 終わりにしろ! それだけを心で繰り返して。
 
「克晴、こっち向いて」
「あ……!!」
 いきなり身体をひっくり返された。仰向けにされて、身体が震える。寒い訳じゃないけど、空気に晒されると、竦む。
「ん、締まった」
 嬉しそうに、挿れたままの指を動かす。
「足、閉じててね。この柔らかい感じも僕、好きなんだ」
 尻の肉を手の甲で擦る。
 俺は、腰の両脇でシーツを握り締める。
 なんだ、この格好……!
 手足を真っ直ぐ伸ばしたまま横たわり、後ろに指だけ突っ込まれていた。放置されている、身体の他の部分が冷えていく。
 俺はつい、オッサンを見た。
「ん? さっきの方が良かった?」
 俺は顔が熱くなった。
 そんなことじゃない! 早く終わりにしろって言ってんだ! 
 そう、怒鳴ろうとしたら、急に唇を塞がれた。
「んん──っ!」
 三本目の指が入ってこようとしている。
 それは初めてだった。
 ───やだ! いやだ!
 圧迫感と恐怖が、後ろを締めさせる。
 これ以上いじくるな! 変な風に変えるな! 身体を捩って、唇から、指から逃げようと必死に動く。
 ───あっ!?
 ビクンと腰が跳ねた。変な感覚。そこから生まれた痺れが、背中を這った。
「うぅっ───!!」
 これでもかというほど、後ろを締めてしまった。
「ああ、いいね。克晴」
「や──やだ」
 怖くて、声をあげた。
「オッサン……もう、やめ……」
 止まらない指の動きに悔しくて、キスの合間に睨み付けた。
「克晴……感じることを、怖がらないで」
 真っ直ぐ見つめて、そう言われた。
「───っ」
 感じるって、なんだよ! 俺にはわかんない!! 
 ただこんなの、嫌なんだ。
 何でこんなことされるのか、そっちの方が俺は嫌なんだ!!
 
 
 
 
 
 
 
「──────!!」
 急に意識が戻った。
 ───夢!
 身体は動かない。
 眼だけが開いて、意識が妙にハッキリしていた。
「………………」
 たった今見ていた夢を、思い返した。
 ……あれは6年生の……夏が終わった頃だ……。
 寒くなってきていて、空調をやたらと気にするオッサンの姿があった。壁に行っては温度をチェックする背中を、しょっちゅう見ていた。
 俺の苦痛が始まって、1年半……。それぐらいは経っていた。
「……………」
 下半身が疼いた気がして、ゾッとした。
 あんな夢で……。
 封印していた、あの期間。
 恵への想いで、塗り潰していた。
 ……だから、夢でも見ない限り、思い出さなかった。
 何を、今更……。
 嫌と言いながら、何かを感じてしまう恐怖。忘れていたそんな感覚を思い出して、俺は戸惑ってしまった。
 
 ……いやだ……。
 そんな自分に、嫌気が差した。
 


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