chapter4. blood ceremony -血の饗宴-
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細められたまま、潤んだ瞳──
もはや、どのくらい見えているのかも分からない。
その霞んだ視界で、僕を睨み付けて……そして……
克晴は、初めて首を───縦に振った。
「──────!!」
全身から、血の気が引いた。
軽く訊いたつもりだった。
いくらなんでも、そんな…って。
でも、克晴の絶対拒否は───本物だった。
どこにそんな力が残っているのか。
僕を睨む眼に、迷いはない。
こんなにもハッキリとした“YES”を貰ったのは、多分……今までで初めてだ。
心が冷えていく。
なんで……なんで……
僕の心も泣き出す。
悲しみで掻きむしられるように、胸が痛い。
「………くっ」
克晴が身悶えた。僕の身体が、勝手に愛撫を始めていた。
なんで……なんで……!
その気持ちが、この身体に直接聞こうとしている。
許さない……許さない───! ショックは、怒りと欲望に変わっていった。
「ぁ……はぁ……!」
こんなに拒否されても愛しい…そのペニスにしゃぶり付く。後ろの指を出し入れする。
「ん! ………ぁ……」
また克晴がイキそうになった。
イカせるもんか! 僕は、放り出すように愛撫をぴたりと止めた。
「ふ………」
克晴が、泣きだした。
涙は流さなくても、何故か克晴が泣いているのが、いつも僕には分かった。
───どうして……
どうして、こうなってしまうんだろう。
泣かせたい訳じゃないのに。いつもこの繰り返しだ。
でも僕の暴走する“怒り”という哀しみは、暴力を止めない。最後は、言葉で脅した。
「辛いだろ? “うん”て言うまで辞めないよ」
「……ご飯も…トイレも…睡眠も。みんなお預け」
「何回でも、これを繰り返す」
「薬はまだあるんだ。感度が落ちたら、また挿れてあげる」
「────!!」
克晴の瞳が、驚愕の色に変わる。
「……………」
怯えた子羊は、やっと首を縦に振った。
僕は嬉しかった。
どんな形にしろ、僕の言うことを聞いてくれたんだ。
イきたい? という僕の問いかけに、ハイ……と、ひとつ、頷かせた。
これからも言わせる。毎回お願いさせる。
僕のlost sheepは、また一つ、いい子になった。
「気持ちよくしてあげるね」
克晴を抱き締めながら、下の戒めを外した。
一回手でイかせた後、克晴の中に入った。
「あ……ああぁ!!」
ギャグの中でこもった喘ぎが、部屋に響く。
「──ん………」
───熱い……克晴……
締め付けが凄い。食いちぎる勢いで、僕を迎え入れる。
───こんなになるまで、我慢して……
愛しいのと憎らしいので、打ち付ける腰の加減が出来ない。
二回吐精した後、克晴はまた意識を失くした。
僕はその身体を、その後もずっと抱き続けた。
もう、何回イッたか判らない。克晴の我慢は、僕の我慢でもあったんだ。
やりすぎたと気付いたのは、次の日の朝だった。
ベッドの中から僕を見上げる克晴が───怯えていた。
疲れ果てたであろう身体はピクリとも動けず、掛布から出た手首のプレートだけが、震えてチャリチャリと軽い金属音を立てている。
「なに、克晴……震えてるの?」
「………っ」
驚いて呟いた僕に、必死に目線だけで強がる。
でも、噛み締めた唇や、寄せた眉は悲しげで、……今にも泣き出しそうだった。
気の強い克晴に、そんな顔をさせてしまった。
僕は胸がズキンと痛くなった。
────ごめん……ごめんね……
口の中で繰り返す。
やはり、その言葉も伝えられない。何度謝ったって、許されることではないから。
でも……強情な君だって、悪いよ……
辛い気持ちが、責任転嫁し出す。こうなると、僕は反省なんかどこかにすっ飛んでしまう。
悪いと判っているのに、その身体を欲しくなる。
可哀相だと思っても、衝動が抑えられない。
熱くしなる身体。
堪えては漏らす、色っぽい声。きつく締め上げてくる蕾…どうして、この身体を我慢できよう……壊してしまう不安に駆られながら、じっくりと調教していった。
──キスを大人しく、受け入れる。
──悪態を突かせない。
──もっと素直に、快感を享受させる……これがまた強情で、てんでダメだ。
そして、……僕の名前を呼ばせる。
クスリとバイブを使って、克晴を散々啼かせた。
自慰の時、恵君の事ばかり呼んでいるのを聞いてしまった僕は、かなり辛く当たっちゃった。
「お仕置きだから、ちょっと辛いよ。でも克晴がいい子にして、僕をちゃんと呼んでくれるなら、すぐにやめてあげる」
本当は、そんなことしたくない。だから、何度もチャンスを与えたのに。
克晴を見ては、今、呼んでくれないかな……って、そう思った。
でも克晴は、ただ僕を睨み返すだけなんだ。馬鹿克晴……!!
無理しすぎて、本当に精神が壊れてしまう場合があるんだ。そこのぎりぎりで、クスリを使いすぎないように、気を付けた。
シリンジを蕾にあてがうとき、僕は異様に興奮した。
中身を押し込んでいくと、勃ちあがっているペニスが、ぴくんと動く。掠れる声が、一段と高くなる。
ああ……、この姿を見れるなら、“お仕置き”なんて、何でも理由を付けて、何回でもしたいかも……
克晴の強情のせいで、僕まで久しぶりにクスリを味わうことになってしまった。
意識が飛んだ克晴を、起こす。
「言ったでしょ。気絶しても起こすって」
恐怖する克晴に微笑みかけると、僕も覚悟を決めた。
紅いベルトで、自分の熱くなった肉棒の根本を括った。ピンクローターを挿れてある蕾に、それをあてがう。
「ひっ! ……ああぁぁ!!」
悲鳴と喘ぎ、その声に煽られて、僕の貫く勢いが増す。強引に全部挿れると、腰を止めた。
(…………ふ…)
久しぶりの感覚。克晴の中に残るクスリが、僕のペニスにまとわりついてくる。そこから、痺れたように身体が熱くなっていく。
動悸……疼き……目眩……高揚感……
ここまでしてるんだ。
結果を出すまで、絶対やめない! 絶対に名前で呼ばせるようにする!!
僕は必死で、それを克晴に訴えるように穿ち続けた。
「アッ…、アッ……!」
悶えて、首を振り続ける克晴。
こんな辛いこと、本当に終わりにしてあげたい。
僕も辛いんだ。
克晴にはもっと、笑って欲しい。僕には見せない、あの笑顔がほしいよ……
だから、今は……
お願い…お願い、克晴───
中のバイブも動かした。
「……うわあぁッ!!」
僕もこれには、やられた。
「───くぅっ……」
打ち込むペニスの先で、振動が僕まで揺さぶる。
「……克晴……克晴……」
首を抱え込んで、肩口に顔を押しつけながら、克晴を呼ぶ。
ジュブジュブ、パンパンと穿ち続ける音が、果てしなく続く。
「あッ、あッ、あッ、あッ……」
強情克晴は、揺すられるまま、声を上げていた。
いつまで経っても、喘ぎ声だけ───
応えて……僕に、応えてよ──!!
最後は、悲痛な叫びになってしまった。
「克晴……克晴……克晴…………かつはる!!」
「まさ……よ…し…」
喘ぎと、荒い呼吸の中で───
肉音と水音が、うるさく──
自分の叫び声で掻き消してしまいそうな程、か細い声だった。
でも、確かに聞こえたんだ。
やっと、僕を名前で呼んでくれた。
僕の名前を、その唇が辿ったんだ……
嬉しくて、嬉しくて………
僕は、泣きながら克晴を抱きしめた。
二人の戒めを外すと、興奮した野獣のように押さえが効かなくなった。
何度も何度も、頂点を目指す。
克晴も、クスリのせいで快楽に貪欲になっていった。腰を振り、キスをねだり……身体を僕に捧げる。
もう、克晴の意識があるのかも分からない……
そんな状態のまま、僕は腰を打ち続けた。