chapter4. blood ceremony -血の儀式-
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自分の中指を舐めて、克晴の蕾に手を伸ばす。
濡らした指を、そこにあてがうと、腰がビクンと震えた。垂れ下がっているペニスも、いやらしく揺れる。
「………ぅ…」
小さく呻く、克晴の声……。指を折り曲げて、ゆっくり押していく。
「………ぁっ」
少しずつ、蕾に埋めていく。
「ん……んっ……」
軽い四つん這いのような格好で、お尻を振り始めた。僕の脇腹にしがみつく。
「腰、もっと前に出して。手が届かないよ」
「…………はぁ……」
熱くなった吐息を漏らしながら、克晴はしぶしぶ起きあがって、腰を前に出してきた。
前屈になれず、膝立ちのまま、指だけを受け入れていく。
「あっ……ん……ぁああ……」
揺れる体内へ指を深めていくと、ぎゅうぎゅう搾ってくる。
どこにも頼れなくなった両手は、口を塞いで声を殺している。
「んっ……ぁああッ、……はぁっ…」
克晴は言われた通り、しゃがみ込まないように、必死に腰を上げ続けた。
逃げるように前後に揺すっては、太腿や下腹の筋肉をビクビクと動かす。僕はそれを楽しみながら、容赦なく追い詰めていった。
手の平に乗ってくる袋を揉んだりして、指を激しく出入りさせる。本数を増やしては、中で広げた。
「ああぁ……! ヤ……嫌だ……」
萎縮していたペニスが、今は上を向いていた。
───すごい……この締め付けで……早く、僕も……
「もう……いいよね」
指を抜くと、克晴を促した。興奮で濡れ濡れになっちゃった肉棒を上に向けて、構えて待つ。
「……………」
何も言わない。
いいも悪いも。
黙って、体だけ動き出した。
でも、その表情は……“屈辱に耐えて”……そんな言葉が、ぴったりだった。
怒っているように眉を吊り上げ、目は固く閉ざしている。
平常心を保つように、きつく結ばれた口元。その頬は昂揚して、紅く染まっているというのに。
双丘に手を添え、自分で広げ、自分であてがい……腰を落としていく。
その光景は、あまりにも僕を興奮させた。
挿れる前から、こんなに大きくなったことはなかった。大概、入れてから気持ちよくて、もっと大きくなったのに。
だからかな。
かなり苦労して、先っぽを入れた。
「ん……」
一息、ふぅ…と深呼吸なんてしてる。
僕も、感じすぎて息が荒くなってた。克晴に合わせて、深く息を吸い込む。早くイッちゃいそうな、予感がしたから。
「良いよ、克晴。そのままゆっくり……」
僕の言葉に、挿入を続けだした。
脚を大きく広げ、秘門が男根を咥え込んでいく。
「エロいよ……克晴。……興奮する」
前回も思ったけど。こんなに卑猥なポーズって、あるかな。あんまりにも、克晴の身体は、ヤラシすぎる。
僕の吐息と囁きに、一瞬動きが止まったけど、すぐに動き出した。体重でどんどん腰が落ちていく。
「く……はぁ……」
喘ぎながら……痛いのか、時々座り直すように位置を変えて。
「んっ……」
全部入りきって、僕の上に座り込んだ。
温かい、克晴の中とお尻。
「克晴……」
首の後ろに手を伸ばして、引き寄せた。自分も起きあがって、キスをした。
散々抱いてきたけど…今が、一番……サイコーかも……
イッちゃうのが勿体ない。
このままずっと……上も下も……ずっと……繋がっていられたらいいのに──
その後は、こないだと同じだった。
手は自由になってるけど。克晴は、全く自分で腰を振れなかった。前屈で、僕にしがみつくばかり。
諦めた僕は、下から突き上げて、克晴を啼かせた。
そこまでは、同じだった。
「ぁぁああ…! ぁぁあっ…!」
乱れる克晴。
胸を反らせて、喉を晒けて……その色っぽい声と、身体に見惚れて。
「気持ちいいでしょ?」
あんまり、身体をしならせて、感じてるから……
「身体が反応してるの、認めなよ」
あんまり、後ろの締め付けが激しいから……
今度こそ、認めるかと、思ったんだ。
克晴は、僕の言葉に眼を瞠って、一瞬鋭く睨み付けてきた。
それでも、打ち付けに反応して…悔しそうに、そっぽを向いた。聞きたくないと、言わんばかりに。
その瞬間……
「………?」
僕のお腹に、温かい感触。
何度か感じる。
──────!!
「………なに……なんで?」
僕は驚いて、もう一度克晴を見上げた。
「なんで…………泣いてるの? ……克晴」
克晴の頬に……涙が伝っていた。
顔を横に向けて、視線を逸らしたまま、涙を流している。
突き上げる腰の振動で、揺すられるたび……それは、パタパタと僕のお腹の上に落ちてきた。
時々眼を閉じて、快感に耐えながらも……。泣き声など上げずに、ただ涙を流している。
その様子は、仰け反る克晴の妖艶さを、ますます際立たせていた。
僕の驚いた声に、克晴の視線が揺れた。
「…………え?」
言われて気が付いたように、頬を手の甲で拭った。
初めて見る、克晴の涙………。
「なに───どうしたの……」
信じられなくて、もう一度聞いてしまった。
悲しけりゃ、誰だって泣く。
でも。
何があったって、絶対、克晴は泣かなかった。
涙は……流さなかったんだ。
だから、こんないきなり泣きだした克晴に、僕は狼狽した。
「……泣いてない。……俺は、泣かない…!」
頬を濡らしながら、克晴が僕を睨んできた。
「……泣いてない…って……」
また、驚いた。そんなこと言ったって……そんなの、通るわけないだろ。
「──泣いてるじゃん! 思いっ切り!!」
僕はもうセックスどころじゃなくなった。
克晴を上から退かせる。
「んっ……」
まだ硬く勃起している僕を、むりやり克晴から抜いたから、二人して呻いてしまった。
「……克晴……?」
足を横に投げ出して、シーツを握り締めた両手で身体を支えている。
その二の腕を掴んでこっちに向かせると、俯いた顔を覗き込んだ。
苦しそうな顔……眉を寄せて、唇を歪めて……頬を伝う──透明な、幾筋もの涙。
「泣いてない……俺は……泣かない」
真っ直ぐ僕を見て、同じ事を繰り返す。
僕はどうしていいか、分からなくなった。
この言葉を、心でずっと繰り返して…?
今までそうしてきたのかと思うと、胸が痛くて───
そのまま引き寄せると、ぎゅっと抱き締めた。
頭も肩も、みんな腕の中にくるみ込んで。
ベッドの真ん中で…
二人して埋まるように座り込んで、ずっと克晴を抱き締めていた。
泣きやむまで、ずっとそうしていた。
泣きやむと言ったって、涙が止まっただけ。
克晴は泣いてないと、あくまでも言い張る。
腕の中で動き出した克晴は、いつもの克晴で……
今の涙はまるっきり無かったみたいに、なんの説明も…言葉もない。
「克晴! 意地張ってないで、認めなよ!」
僕はいい加減焦れて、怒鳴ってしまった。
泣いてない
感じてない
まったく、何処がだよ!
あんなによがって、悶えまくって!
あんなに、涙を流し続けて!
克晴のこの強情さが、どうにかならなければ、僕たちの進展はあり得ない……
この時僕は、そう悟った。
克晴だけの問題か……
何故そんなに、頑ななのか………
そこに行き着く余裕は、僕には無かった。
結局、最後まで──その後もずっと……、泣いてないと言い張るその一言で片づけられてしまい、理由はわからなかった。
その前の、克晴の急変とも、何か関係がある気がするんだけど。
「克晴……」
心を開かない……哀しみの人形を、僕は抱き締める。
この空間に歪みが入る予感がして、怖くなった。
かつて、僕と克晴で築き上げた不文律───それが復活することを夢見て。
この二人だけの世界を作ったのに。
この国に…ネバーランドに回帰するには──僕たちは、育ちすぎてしまったんだろうか。
特に克晴。───君は……
僕は、無い夢を追いかけているのかな……
そして、理由がわからない以上、それを避けることもできず───
僕は相変わらず、心を傷つけながらその身体を求めてしまった。