chapter4. blood ceremony -血の儀式-
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────克晴……
ぎゅうっと胸が、痛くなる。
もういいから……と、解放してあげたくなる。
でも、突っ走る性欲がそれをさせない。
僕は最後までやりたい。
そして、克晴には認めさせたい。“快感”を受け入れてほしい。
これはやはり、初めてしまったゲーム。
───僕が、勝つんだ。
「……わかった。僕が動くから」
寄りかかる体を引き剥がすと、克晴の枕元にあった大きいクッションを引き寄せて、自分の背中に回り込ませて当てた。
これで、寝そべっていても、上半身を支えられる。
腰を動かし始めると、克晴が揺れた。
「ッ……ぁああ……く……」
下から突き上げるように、打ち付ける。
「……ぁああ、ぁああ! ……ヤ…嫌だッ」
一度激しく仰け反ると、首を振って、身悶え始めた。
「やめろって……! 雅義──!!」
悲痛に叫ぶ。
バランスを取れない半身が、僕の上に倒れてきた。その肩を、両手で支えてあげる。首をがくんと垂れ下げて、僕が支えた肩だけで、上体は保たれていた。
繋がっている部分が、激しく痙攣しながら、僕を締め付けてくる。
熱い身体を受け止めていると、愛しくて愛しくて───
抱き締めてしまいたい衝動に、何度も駆られる。
でも同時に、正反対の感情………。
何故ここまで、非情になれるのか──絶対許さない、僕がいる。
克晴にとって、これは儀式なんだ。
ゲームなんて甘いモンじゃない。
コレを受け入れて、……変わらなきゃいけないんだ。
僕の“愛撫”という洗礼を浴びて───
「克晴……」
前髪で隠れた顔に、囁きかけた。
「気持ちいい……最高……」
言いながらも、腰は止まらない。
「あぁっ、ああぁっ……」
突き上げるたびに漏れる喘ぎも、堪らない。抑えながらも、掠れて上擦る。
なんて色っぽいんだろう……聞き惚れて、ますます欲情した。
「あっ! ……ぅ…ぁああっ!」
大きくなった僕に、克晴が反応した。急に背中を反らせて、喘いだ。
「ぁぁ…や……もう、やだ……」
荒い息で、そう叫ぶ。
「やだって……無理だよ」
そんなそそる格好を、僕に見せつけて……
上半身は、完全に後ろに反っていた。
背中で拘束された両手で、僕の太腿にしがみつき、喉を反らせて喘いでいる。
その開かれた胸には、さっき散らした紅い痕があちこちに、まだはっきりと浮き出ていた。
そして、大きく開脚した中心には……腰を打ち付けるたび、僕の腹にも当たる、克晴の勃起したペニス。
「克晴……かわいいなあ」
言わずにはいられない。
僕も苦しい息の中、呟いて、そこに手を伸ばした。
「───アッ!!」
「くっ……」
扱きだした途端、もの凄い締め付け。
やば……イッちゃうよ……
「克晴……僕、イク……」
背中が吊りそうなほど、下から打ち付けた。
……克晴も一緒にイカせる。前を扱きながら、胸を弄くった。
「あぁぁ……!」
嫌がって、身体を捩った。
「やっ……ダメ……もうヤ……」
あぁ……イク……イクッ!!
「やめっ………ああぁぁ…!」
ドクン
音が聞こえるかと思った。
克晴の中に、思い切り滾りを放出した。
克晴も、僕のお腹に白濁を飛び散らせていた。
───はぁ……めちゃ、気持ちいい……
……やばいよ……これ、クセになりそう──
痙攣しては搾る克晴を感じながら、目眩がしそうだった。
僕の上に座り込んだまま、項垂れて荒い息を繰り返している。
前髪の隙間から時々見えるその顔は、目をぎゅっと瞑って、頬が真っ赤で。
それを見てたらまた勃っちゃいそうだったから、腰から退かした。残念だけど、この体位で連続は、無理だった。背中が吊っちゃう。
僕から降りた克晴は、その場で倒れ込むように横になった。
飛び散った白濁を綺麗にすると、後ろ手のプレートを解除してあげて、克晴に寄り添って、僕も横になった。後ろから抱きしめて眠る。
普段は自分のベッドで寝るけど、時々、一緒に寝てしまう。ヤった後は、可愛くて可愛くて……離れたくなくなっちゃうから。
克晴を抱けば抱くほど、僕はその身体に溺れていく。
……反比例するように、憎しみが深まるのを知りながら。
『この、悪魔!』
克晴が罵るとき、僕をそう呼んだ。
……そうかもしれない。克晴にとって、僕なんて──
その“悪魔”に、魅入られてしまった克晴………
可哀相な、Black Sheep。
僕の生け贄。
どうなっていくんだろう。
……どう変わっていくんだろう。
でも、本当は反対なんじゃないかと、時々思う。
克晴が、僕を虜にして止まないんじゃないか……
それはまるで、アフロディーテの申し子として生まれた、かの天使のように……。
黄金の矢で射抜かれた僕は、いつか愛しすぎて、この生を滅ぼしてしまうかも知れない。
「克晴、こないだのやろう」
僕は、あれが忘れられなくて、また強要してしまった。
正常位でも充分気持ち良くて、それはそれでヤッてるけど。
なんか、興奮度が違うんだよね。
───あの騎乗位でやった日から、1週間。
克晴が初めてここに来てから、もう1ヶ月以上が経っていた。
誕生日過ぎて、帰ってきて。
絶食……お仕置き……
いろいろあったけど、克晴は、本当にいい子になった。
ただ、……やっぱり僕は……克晴と会話がしたい。
夕食も終わり、今日の新聞に一通り目を通して、シャワーも済ませた。克晴は相変わらず、ベッドの中から動かなかった。
今朝、出がけに抱いたからいいかと思ってたけど……我慢できなかった。
「………?」
部屋に入ってきた僕を、不安げに見上げる。
「こないだのアレ、さ。克晴、上になって」
言った途端、目の色が不安から恐怖に変わった。真っ青な顔になって、一瞬首を振った。
その唇は“いやだ”と、かたどった。
でも、はっきり首は振らない。
声にも出さない。
僕が教え込んだ、“拒否は許さない”のせいで。
グッと両手を握りしめて、唇だけを噛んだ。
そんな仕草が、また愛しくて。そっと顎を捉えて、キスをした。
この間の夢のような、克晴の“受け入れ”はもう無かった。
理由なんか聞いてないから、何でなのかは分からない。ただ、僕はそれに触れるのが、何となく怖かったんだ。
だから、放っておいた。
克晴の動かない舌を舐め回して、吸い上げる。
「ん……」
ちゃんと反応はしてくれるから、これで充分だ。
「言うこと聞かないと、また後ろで手首、繋ぐよ。それでもヤルからね」
唇がまだ触れるような距離で、静かにそう言った。
「それが好きなら、それでもいいけど」
「…………」
グッと、克晴の喉が鳴った。その頭を抱きかかえて胸に押しつけると、僕は掛布を剥ぎ取った。
もう一度ディープキスを繰り返しながら、パジャマを脱がせていく。青いシルクのやつだ。やっぱりよく似合う。
下着はまだ、与えていなかった。……そんな気分には、なれなくて。
全裸にさせた克晴を、僕に跨らせた。僕はズボンと下着だけ、脱いで。
「今日は、自分で全部入れてみて」
「───!」
僕の腰に置かれた克晴の手が、震えた。
「解すのは、やってあげる。でも、前戯で座り込んじゃダメだよ」