chapter4. soul awakening 覚醒 -魂をかけて-
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 3
 
「───はぁっ…」
 僕はまた、唇を引き結んだ。
 
 
 
 ───僕の変な声に、霧島君が、気が付いた……
 
 身体じゃない何処かが、熱くなった。
 目の前の先生の顔を、力一杯睨み付ける。
 ───こんな、酷いこと…!
 あの写真一枚が、怖かったのに……こんな恥ずかしい声……真横で聴かれるなんて…!
「何? その目……いつものように、微笑んで」
 先生が、笑う。
「………………」
 ───微笑んでなんか、ない……
 
「んっ」
 急にキス、激しく舌を絡めてきた。……苦しい!
「んっ、んんーーーっ!」
 舌が抜けそうなくらい、吸い上げられた。同時に、胸の刺激も強める。
 ──や……やめて……
 ………聞かれたくないよぉ!
 
 僕は必死に、声を堪えて息を止めた。
「どうしたの? いつものように声を出して。……気持ちいいでしょう?」
 先生がおかしそうに笑いながら、手を滑らせていく。胸を撫で上げて、お腹をくすぐり、その下へ……
「や……せんせ……」
 小さい声で、抵抗した。
 動く手を止めたくて、のし掛かってくる胸を押して身体を剥がそうと、暴れた。
 でも、掛けてくる体重が重すぎて……。先生の手は容赦なく、僕の敏感なところに辿り着いた。
「……あッ……」
 腰がビクンと跳ねてしまった。お尻を指が刺激する。
 周りを撫でたり中心を押したり……脚を開けとばかりに、内股を撫で上げてくる。
「や……あ……」
「ふふ……そうそう、もっといい声……出さなきゃ」
 
 
「…………………」
 霧島君が、息を詰めて様子を伺ってる。
 
 
「ぁ……あぁっ……」
 強引に指が入ってきた。
「や……先生……やぁ……」
 嫌なのに……弄られると、体中に電気が走ったみたいになる。
 馬乗りになったまま、先生は僕の中で指をかき混ぜた。
「あっ………ああぁっ……!!」
 
 ───やっやだ……霧島君……聞いちゃやだ……!!
 
 顔も身体も、熱くなった。
 声を殺しても、はぁはぁという息遣いと、クチュクチュとやらしい音が響いてる……。
 恥ずかしくて、ぎゅっと瞑っていた目の端が、どんどん熱くなっていく。
「丈太郎、………この音、聞こえてるよね?」
「あ…………やっ……せんせ……」
 言わないで! そう思いながら、思わず霧島君を横目で見た。
 滲んだ視界の端に、ピクリとも動かない縛られた身体……。
 タオルで目隠しされた顔は、表情が分からない。
 薄く開いていた口が、微かに動いた。掠れた声が、困惑を含んで……
 
 
 
 
 
「あ……まの…」
 
 
 
 
 ……………………
 
 
 
 
「……なに、されてんだよ………おまえ…?」
 
 
 
 
 
 ──────!!
 僕のせっかく動き出した心臓が、また痛くなった。
 
「……きりしまくん……」
 
 思わず出ちゃった、泣きそうな声……。
 ばれちゃった……
 こんな…こんな……恥ずかしい、僕……もう、死んでしまいたい───
 
 
 
「されてるんじゃないよ、してあげているの」
 
 
 鋭く冷たい声が、ピシッと響いた。
「………………」
「これが、天野君の正体………そして、相談の悩みごと」
 ─────!?
 また……先生、なにを………
 ギョッとして先生を見上げると、薄笑いを浮かべた光る目が、僕を見下ろしていた。
「天野君……よそ見は、いけないよ」
「────」
 その目も、心が凍りそうなくらい冷たかった。
 
「……ほら、そんな顔してないで………いつもの可愛い天野君を、見せて」
 表情からは、想像も付かない、優しい声。
「……あ…」
 再開した愛撫に、冷えていた身体が震えた。
 また指が出入りする。胸の尖りも、一緒に刺激する。
「天野君はね……この二つがとても好きなんだ」
「ぁあ……あッ…」
 指が増えて、動きも速い。お尻から背中に、我慢出来ない刺激が走る。
「この声、素敵でしょう……」
 先生の声が、どんどん笑い出す。
 
 
「───あま…の……?」
 
 
「丈太郎……天野君、何していると思う?」
 ───!! ……せんせ……
「服を全部脱いで、ぼくに身体を撫でてもらっているんだ」
「……やめッ…」
 口を手のひらで塞がれた。
 見下ろしてくる目が、もっと妖しく光ってる。……楽しそうに、クスクスと笑い続ける。
 
「─────」
 身体や顔は熱いのに、背中がゾクリと冷えた。
 
「天野君はね、このイヤラシイ身体を持て余して……困ってぼくのところに来たんだよ」
 !! ───なに……なに、言ってるの、せんせい…!
「毎晩、エッチな気分になって、身体が熱くなっちゃうって……」
 ───変なこと言わないで、先生!!
「………ちが………ちがう!」
 指の隙間から、必死に声を出した。
「何を今さら、恥ずかしがるの……ほら、聴かせてあげよう……君の声」
「や………やぁああ…」
 お尻の中の、一番触っちゃダメなところをぐりぐりしだした。
 
「あ……ぁ………せんせ……や…」
 足先まで、ビリビリ痺れる。
「んっ……ぁあっ…」
 いつもいつも……我慢できないくらい刺激されて、声を出させられた。
 …はぁっ、……はぁっ…
 我慢……出来ない………
 
「こうやって、ぼくが解消してあげてるんだ。こんな淫乱な天野君のカラダ、どうしたらいいか……直接教えてあげながらね……」
 
 言いながら指を抜いて、勃っちゃってる僕のを手のひらに包んだ。
「………ぁああああ!」
 上下に動かされて、先端を擦られて、体中に電流が駆け抜けた。跨ってる先生を押し上げてしまうほど、身体が跳ねて、震えた。
「ああっ……や、……はぁっ……ん…」
 押し殺しても、声が出ちゃう!
 クチュクチュいう音も、凄い聞こえる…………恥ずかしいよ……!!
 
 聴かれてると思うと、よけい身体が熱くなった。
 霧島君はもう、何も言わない。
 
 僕ももう、考えたくない。
 どう聞こえてるかなんて───
 
 
 
「さあ、最後のやるよ? 君が一番好きなもの、あげる」
 
 
 
 先生の声が、信じられなかった。
「君が誰のモノか……丈太郎に、教えてあげなきゃ」
 ─────え?
 そう思った途端、身体が軽くなった。重かった先生が、上から退いたんだって、わかった。
 そして、足を開いて抱え上げられて……
「や────!」
 僕が悲鳴を上げるのと、先生が入ってくるのが同時だった。
 
 
「あっ…………ぁああああっ……!!」
 
 
 ゆっくり、ゆっくり……痛くしないように…………
 熱い塊が、僕を押し上げてくる…!
 
 背中を這い上がる“快感” ───うそ……うそ……! 霧島君の目の前で…こんなの……
「あっ……ぁああっ………」
 
 
 
 ────やめて……やめて! ………酷いよ、先生──!!
 
 
 
 ずぶずぶと今までにないくらい、奥の奥まで入れられて、動きが止まった。
「……う…」
 一緒に呻いた先生が、じっと見下ろしてきてるみたい。
 僕は震えが止まらなくて、顔も上げられない。痛くしなくたって…どんなに優しくしたからって……
 
 ……熱い……苦しい……
 お尻の中で大きな塊が、窮屈に脈を打ってるのが分かる。
 ウソじゃない……本当に霧島君の目の前で、僕は……最後まで…入れられちゃった……
 
 ───酷い……
 
 ショックと圧迫感と、恥ずかしいのとで、目が回った。
 頭も顔も身体も、心も、ぜんぶ熱い。痛くて、熱い。ぎゅと瞑った目から、ぽろぽろ涙が零れて。
「ん……ぅあん…」
 それなのに先生が動き出したら、お尻の内側からあの感覚が湧いてきて……
「天野君……ハァ…可愛いよ……」
 興奮した先生の声。早くなる出し入れに、腰から揺さぶられる。
「あっ……あ…」
 その度に、声が出ちゃう…! 
 両手で口を塞いで、必死に声を止めた。
 
「んっ……んんっ……」
 押さえるほど、ベッドの音がギシギシと、聞こえてくる気がする。
 この音もやだよ…わかっちゃう? ……何されてるか、わかっちゃうよねぇ……?
 聴かないで…霧島君……お願い…お願い、……聴かないで──!
 泣きながらも、熱くて熱くて、ゴチャゴチャにされていく。
 
「丈太郎……君がナイトの役なんか、する必要はないんだ。……天野君……君には、彼の名を呼ぶことを許さない」
 
「んっ……ぁあっ……ぁあんっ……」
 
「わかるね? 丈太郎……これがぼくの、天野君の声だよ!」
 嬉しそうに、そんなことを言う。
 
 
 ……ちがう…ちがう………先生のモノなんかじゃない!
 首を振りながら、疼き上がってくる快感と戦った。
 ───あっ、あっ……なに? ──先生……なんか……
 ……や…やだよ………今日、すごい……
 
 
「んっ……やッ…やぁ……」
 
「天野君、そんな我慢しないで。……いつもみたいに、ぼくを呼んで」
「…………!」
「気持ちいいって、言いなさい」
 
「────ッ!」
 首を振って、先生を睨んで………
 それでも、毎日……
 ……毎日、毎日、僕をいじくった指は、僕よりも僕の身体を知っていた。
 
 
「ほら、おねだりは……?」
 意地悪するように、気持ちいいところを突き上げながら、擦りながら、焦らす。
 いつもより、おっきくて……ゆっくりの出入りが、余計辛い…。
「あぁッ…、あぁッ……!」
 ギシリ…ギシリ…、合わせてベットが揺れてる。
「ああぁんッ、……もッ……も…やぁ……!」
 胸を弄られ、前の先っちょだけ撫でられながら、絶頂を目指しては、止められて。
 それを何度も、繰り返された。
 熱く痺れる身体は、自分でも言うことをきかせられない。
 でも…僕だって、それだけは嫌だった。
 喘いでしまうけど……恥ずかしい声は出ちゃうけど……自分からは、言いたくなかった。
「ぁああ……ぁ…せんせ───はあぁッ……」
 口を押さえながら、首を振って、目で訴えた。
 許して……許して───!!
 
 
 
「天野君…………」
 動きを少し早めながら、興奮した顔が、冷たい眼を光らせる。
「天野君……好き……好きだよ」
 最後に決まって繰り返される、呪文のような囁き。
「……んぁあっ」
 耳に唇を押し付けられて、また背中に電気が走った。
 ───もぉ…や……こんな僕の身体……キライだ…!
 突き上げが、激しくなってくる。
「はぁッ…はぁッ…」
「天野君……好きだ…好きだ……だいすき…」
「……せんせ……おねが……お願い………」
 もう、やめて、やめて! ………これ以上、こんなとこ霧島君に───
 熱い身体と頭の中で、それだけを思った。
 おねだりなんかじゃなくて、これ以上しないでってお願いだった。
 
 でも先生は、嬉しそうにふふっと笑った。
「やっと、分かってくれたね……ぼくの天使……」
 キスをしながら、もっと激しく突いてきた。僕のも握って、一緒に上下する。
「んぁああ……っ!」
 
「……イク……イクよ……一緒に…天野君! ………愛してる」
 
 ……愛……?
 一瞬視界に入った先生は、僕を見つめて……涙を流していた。
 
 
「……んぁ、ああっ──!」
 絶頂に導かれた。
 僕の身体は悦んで、最後の刺激を受け入れていた。お腹の中にも、先生の熱いのを感じた。
 
 
 ………はぁ……はぁ……!
 先生と僕の乱れた息だけが、いつまでも響いていて……それが収まる頃、やっと僕から抜き出てくれた。
 
「んっ……」
 そんな時まで、イヤラシイ声が……
 
 もう、この世界から消えてしまいたかった。
「…………」
 何も言わない霧島君が、気になる。
 きっと呆れてる。こんなみっともない僕、いやらしい僕……今度こそ見放された。
 ……恥ずかしい……恥ずかしいよ………
 ぎゅうぎゅうと胸が、搾られる。
 でも、それを知ってしまうのが怖くて……僕は、やっぱり、そっちを向けなかった。
 
 
「……可愛かったよ」
 お腹の汚れを全部舐め取った後、透明な筋を頬に伝わせながら、先生はその唇で僕の涙を拭う。
「……愛してる……君を、愛してる」
 囁き続ける。
 
 僕は、初めて見る先生の涙と、そのコトバに…戸惑っていた。
 幾筋も伝っては、温かい滴が僕の上に落ちてくる。真っ直ぐな視線……
 でも………僕は眉を寄せて、首を振った。
「愛は……ちがう……」
 絞り出して、それだけ言った。
 口が渇いてて、舌がもつれた。
「…………」
 先生は、悲しげにじっと僕を見下ろすと、ふと微笑んだ。
「天野君この前、好きと愛してるってどう違うのって……訊いたよね?」
「…………?」
 唐突な先生のコトバに、ゆっくりと頷いた。
 
「君に惹きつけられて……ぼくは君を、好きになった」
 動けないままの僕の横に座って、頬を撫でてくる。
「君を手に入れて、好きだと囁いて……でも、君は」
「……………」
「君の目は、いつまで経っても……克晴しか映さなかった」
「─────!」
 
 寂しそうに煌めいていた先生の目が、キラリと冷たく閃いた。
「そのうちに、気付いたんだ、ぼくは。……君なしではいられないって」
 
 頬を撫でていた手が、のど元に滑っていった。
「好き……なんてもんじゃない。朝も、昼も、夜も」
「ん……」
 じわっと、指が首を絞めてくる。
「君を想うと、心も身体もおかしくなる……」
「くるし……」
「克晴しか見ない、君と同じって……言ったでしょう?」
「────!?」
 どんどん締められる恐怖の中で、先生を見上げた。
 ………克にぃ…?
 ぐっと、力が強まった。
「……ぅ…」
「それだよ! ……その執着……かけがえのない存在! それこそが愛だよ!」
 またあの高笑いを始めた。
「せん……くるし…ぃ……」
「天野君がぼくを見ないから! 克晴を愛して、ぼくを無視するから……ぼくは君をこんなふうにしか手に入れることが、できなかった!」
 …………はははははは!
 
 
 
 ─────笑い続ける……怖い……!
 呼吸が浅くなって、先生の狂気のような高笑いだけが、頭にガンガン響き始めた。
 
 
 
「わかったね? 愛なんて、エゴなんだよ」
「……はぁッ…はぁッ…」
「克晴しか存在を許さなかった天野君は、その名の元に、全てを拒否した。それがエゴでなくて、なんだ!?」
 
 ────エゴって…? ……そんなコトバ……しらない……
 
「ぼくもぼくの愛を貫いた! それがこの結果だ……!」
「グ……ッ」
 
 
 ───意識が……目の前が白くなっていく……
 


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