chapter4. soul awakening 覚醒 -魂をかけて-
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 5
 
「……あッ……!」
 抱き付いたあと、脚がふらついて、立っていられなかった。
 
 
 膝がガクガク震えちゃって……倒れ込んだ僕を、先生が脇からすくい上げた。
「天野君……!?」
 
 
 
 
 ─────うぁ…!
 お尻から、さっきの先生のが流れ出てきた。内股を、生温かいどろっとしたのが伝い落ちてくのが分かる。
「ん……」
 僕、これが大っキライ……
 しがみついた腕の震えで、先生もそれに気が付いた。
「…………天野君」
 耳元で、ふふ……と息を吐かれながら、抱え直された。…違う震えが、背中を走る。
「ん……せんせ……僕、立ってられない……」
 腕の中から、先生を見上げた。
 
 
 長い睫……少し切れ上がった目尻。
 サラサラの前髪の下で、僕を映す茶色の瞳が、揺らめいた。
 
 
「うん…その目付き…悩ましいね。………やっぱり天野君が、一番……」
 ───キス……
「ん……ん…」
 舌を絡めて吸い上げられる。唾液が送り込まれるのを、ごくんて飲む音まで、霧島君に聞こえるほど……。
 ぴちゃぴちゃ、ハァハァと、イヤラシイ音を立て続けた。
 
「……はぁ……天野君」
「……………はぁ……はぁ……」
 湿った吐息を漏らして、唇が離れた。鼻先が触れる距離で、また視線を絡ませ合う。
 
 
 
 
 …………シーツの中に埋めた携帯……ちゃんと、隠れてるかな……
 …………光る画面は「送信完了」って、なってる……?
 
 
 
 
 後ろのベッドの上が、すごく気になる。
 でも……怖くて、とても振り返れない。
 
 僕はちゃんと押せたの? 
 あれ、柴田先生に……届いたのかな……
 もし、「送信ミス」に、なってたら───
 もし柴田先生が、あれを見ても……来てくれなかったら───
 
 不安が、足元から突き上げてくる。ますます、立っていられない。
 でも、でも…………僕の、精一杯の勇気…………見つかっちゃダメだ。
 
 
 
 
 そこは、後ろのベッドと霧島君との、ちょうど真ん中くらいの位置で。
 ───先生をどっちにも、行かせない。
 
 
 
 
「先生……もう一回」
 僕は今までにないくらい、先生の腕にしがみついて、その目を覗き込んだ。
 首を伸ばして、キスをねだった。
 僕以外を、この瞳が何も映さないように。
 
「───天野君……」
 先生は驚いた顔で、じっと見下ろしてきた。
 
 怖くて………それこそいつも、先生が僕に言うように、きっと目が潤んでる。頬を紅くして、唇は震えてる…。
 ───どう見えるのかな……今の…こんな僕………
 
「───せんせい……」
 沈黙が怖い。
 勘ぐられる前に……気が付いてしまう前に……!
 縋り付いて、目線を合わせた。
 
 
 
 
「天野君……もしかして、嫉妬?」
「………え?」
 
 
 
 先生が満面の微笑みを浮かべて、輝きを零した。頬を少し、ピンクに染めて。
「嬉しいな……天野君……かわいい…………可愛すぎる」
 息が出来ないほど、抱き締められた。
「ごめんね……心配させちゃって」
 そのままシャツをたくし上げられて、背中を撫でられて……
「ぁ……あぁッ」
 太腿に伝ったぬめりを絡めた指先が、お尻の割れ目に這ってきた。
 ……や……ちょっとまって、先生……いきなりこんなの……
 心が準備する前に、カラダが反応してしまう───
 
「ぼくの天野君……その証が、こんなにまで君を、妖しくさせているのにね」
 ちゅぶっと音を立てて、指がするすると中に入ってきた。
「ぁっ…あッ……せんせ……」
 急な刺激に、耐えられない……
 膝から落ちそうになるのを、先生にしがみついて、声を抑えた。
 
「安心して……君以外誰一人、愛したり……しないから」
「…ぁ………あっ………」
「ねぇ? ぼくたちが、愛し合っているところを、丈太郎に、見せてあげようよ」
 
 ───愛し合って……?
 唐突なコトバに、熱くされた僕の頭は、すぐに反応出来なかった。
「や───やっ……」
 
 引き剥がそうとした身体は、強引に引きずられて、霧島君の目の前で抱き直された。
「……せん……いや……」
「丈太郎、よく見ていて! ぼくの魅惑的な、天野君を!」
 あっと思った瞬間、目隠しのタオルが外された。
 
 
「……ぅあッ!?」
 いきなり視界を開放された霧島君は、眩しさに顔を顰めた。
 
 
「──────」
 …………視線が泳ぐ。
 その両目が僕の所で止まって、見開かれた。
 信じられないモノを見るように、眉が寄って、表情が凍り付いていく。
 
「…………あまの……?」
 
 
 
「……みっ……見ないで……霧島く…」
 言い終わらないうちに、唇が塞がれた。
「ん───」
 僕は霧島君の目の前で、桜庭先生と向かい合って抱き締められて。
 キスをされていた。
 
 
 
 
「…はぁ………ふ……ふふ……」
 長い長い、大人のキス……唇が離れた後、銀色の糸を引きながら、先生が笑い出した。
 煌めく目が、嬉しそうに細まる。
「どんな女の子より、可愛い顔で……こんな声で……」
「………………」
「何を恥ずかしがることが、あるの?」
 ────何をって……
 真っ白になった頭の中で、先生の声が響く。
「君は、どれだけ自分が素敵か、わかってる?」
「……この色香が……目線が───どれほど、ぼくを誘うか……」
 間近に僕の顔を覗き込み、親指が唇をなぞる。
「魅力的すぎる……眼差し…吐息……紅い舌も。……ぼくを狂わせる」
 
 潤んだ目で、頬を紅くして……うっすら微笑む先生は、さっきと同じだと思った。
「……………」
 ────どうして、こうなっちゃうの……先生…!
 狂気のような興奮に、取り込まれないように! 
 僕は必死に、首を振っていた。
「ほんとうに、わかってない………」
 溜息交じりに先生は、僕の前髪をそっと掻き上げた。
「君のその……無意識の妖艶さが、罪すぎるんだ」
 
 ─────罪?
 
「なに言ってやがる! 天野の何が悪いんだよッ!? ……罪なのは、……犯罪者なのは、オマエだろッ!?」
 
 霧島君が叫んでいた。
 僕の心に引っ掛かった、何かの代わりに。
 僕がずっと言えなかったコトバを、霧島君が怒鳴っていた。
 
 
 
 
 
 いつ来るか分からない助けを、待ってる。
 それまで、僕が惹き付けてなきゃ。
 
 
 
 
 
 そう思って、頑張ってた。
 それなのに、ぽろりと目の端から、熱い粒が落ちた。
 
 真っ直ぐな霧島君の心が、胸に痛くて───
 
 
 
「………天野君?」
 先生が、顔を離した。
 両肩を押さえて、眉を顰めて見下ろしてくる。僕は必死に先生を見上げて、微笑んだ。
「……なんでも………ない……」
 これ以上、気持ち、零しちゃだめだ。
 今までしてきたように。今度は先生に、ばれないように。
 
 
 
 
 でも、なんでかな……
 胸が痛いよ。
 胸が熱いよ。
 僕の手を離さないでいてくれた、霧島君が。
 真っ直ぐに、僕のことだけを心配してくれるあの声が……
 僕の死んじゃった心を、熱くする──────
 


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